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結婚するなら今だっ


「結婚するなら今だな」


 式を急ごう、城に戻ったジンはアハトたちにそう言った。


 なにがどの辺が今なのですか、という顔をみんなしている。


「共に非常事態を乗り越えたことで、私とアローナの恋は燃え上がっている」


「……あの人の側にいると、いつも非常事態が起こるので。

 それなら、いつも燃え上がっていることになりますが。


 と言いますか。

 アローナ様と、より非常事態を乗り越えたのは、ステファンシリーズやレオ様では?

 一緒に遭難から生還してますからね」

とフェルナンが冷静な意見を述べたが、ジンは、うるさいっ、と忠実なる部下の意見を一蹴する。


「早くしないとあの莫迦娘、娼館の後継者になってしまうっ」


 アローナがエンを奪還するさまをアリアナは密かに窺っていたらしい。


「王子の妃にしておくのには、ちと惜しいな。

 あんた、エメリアのあとの後継者にならないかね」

とアローナをスカウトしはじめた。


 まだまだ、アリアナが娼館の女主人として現役だが、早くから仕込まねばならないそうで。


 アリアナは自分の次のエメリアの、更にその次の人材を探していたようだ。


「後宮なんてつまらないとこさね、アローナ。

 逃げ出してきた私が言うのだから、間違いないよ」

と言うアリアナに、ええっ!? とみんなが声を上げた。


 アリアナは昔、砂漠の向こうの緑の国の後宮にいたそうだ。


「国の決まり事とは言え、愛した男が次々名家の娘を(めと)るのに耐えられなくてね。


 後宮には次々若く美しい娘がやってくる。


 むずかしいことさね。

 たったひとりの愛した男に、永遠に愛され続けることは。


 ……娼館の経営より、よっぽどね」


 ふうー、とアリアナは手入れのいいキセルから煙を吐き出した。


「アリアナ様……」


 アリアナはキセルでジンを差して言う。


「男なんて最初は誰でも、一生お前だけだとか、うっとりするようなことを語るもんさ。

 だが、三年も経たないうちに、今度は違う娘にそう語るのさ。


 特に、王様って人種はね」


「わ、私は違う。

 私は……」

と言おうとしたジンの言葉を遮るように、アリアナは言った。


「よく考えな、アローナ。

 あんたに任せたいのは経営だ。


 あんたが娼婦になる必要はない。


 あんたほどの才があれば、此処を娼館以上のなにかにできるかもしれない」


 娼館以上のなにかってなんだ……と全員が固まる。


 盗賊たちを飼い慣らし、各国に張り巡らされた情報網や販売網を作って、なにかをしでかしそうだ、とジンたちは怯えた。


「……なんかすごい蒸留酒とか交易品とか扱って、桁違いの金銭を要求してきたら、アリアナ様より怖いですな」

と何故かアハトも怯える。


「アローナを娼館にとられてなるものか。

 アローナはメディフィスの王妃にこそ、相応しいっ」

と宣言するジンを見ながら、フェルナンが、


「……いや、相応(ふさわ)しいかどうかは知りませんけどね。

 っていうか、愛情がどうのより、アローナ様の勤め先のスカウト合戦みたいになっちゃってるんですけど、いいんですかね」

と呟いていた。



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