表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/81

どうも此処の法則わかりづらい


「エメリア様は、私たちになにかを教えようとしてくださっています。

 おそらく、ここの客に関わることで。


 なので、直接、私たちに教えることはできなかった。

 客の秘密をもらすことになりますからね。


 だから、あのような手紙を寄越したのです。


 此処で私が手伝っている間に、なにかを見聞きして知ったとしても、それは私自身が自ら知り得た情報で。

 エメリア様たちが教えたことにはならないからです」


 足早に歩いて銀の間を探しながら、アローナはフェルナンにそう説明する。


「私に知らせるのに、あのような上質な紙を使ったり。

 私の腕を信用して、と言ってみたり。


 普通ではないことを散りばめることにより、私に緊急事態であることを察知するようにしてあったのです。


 アリアナ様が私を呼ばなくていいと言ったと書いてあったこともそうです。


 客の秘密をもらすことになるからと、アリアナ様が止めたことを示唆していると思います」


 なるほど、と言ったフェルナンは、

「ところで、問題の銀の間とは何処なのでしょうね?」

と訊いてきた。


「銀の間というからには、銀で飾り立ててあるのでしょうか」


「いやー、どうでしょうね。

 黄金の間だって、何処が黄金の間なんだと思ったくらいですから。


 黄金の犬が一体居ただけでしたからね……」


 そう言ったとき、目の前の大きな扉が開き、中から脚つきの陶器の大皿を持って、二人の美しい女が出てきた。


「すみません。

 銀の間は何処ですか?」

とアローナがその二人に尋ねると、彼女らは今出てきた部屋を振り返り、


「此処よ」

と言った。


 大柄な美女の集団がやってきたので、助っ人が来たのだと思ったようだった。


 忙しげに彼女らは階下へと下りていく。


「失礼します」

とアローナたちが中に入ると、いつもより数段飾り立てた美しいエメリアが居た。


 数人の男たちが座っていたが、エメリアは上座に座る、布で顔を隠した男の側に座っていた。


 アローナを見たエメリアは、

「誰か弾いて、誰か舞いなさい」

と命じる。


 誰か、ですか。


 やはり、私にはお命じくださらないのですね、とそんな場合ではないとわかっていて、つい、いじけてしまう。


「では、わたくしが」

とシャナが言い、フェルナンに美しい装飾の施された太鼓のようなものを叩かせ、舞い始める。


 その舞に男たちは釘付けになっていた。


「美しいですねー。

 シャナもエメリア様も。


 エメリア様、いつもより麗しいいでたちですが。


 ……ジン様なら、見劣りしないですね」

とアローナは横に居るジンを見上げ、小声で言った。


 だが、ジンは、

「なにを言う。

 お前こそ美しいぞ」

と言い、アローナの手をみんなに見えない位置で握ってくる。


「……なにこんなところで、いちゃついてるんですか」

と横から文句を言ってきたフェルナンは部屋の中を見回し、


「それにしても、何処が銀の間なんですかね?」

と訊いてきた。


 手の込んだ巨大なタペストリーや東洋風の陶磁器などが飾ってあり、金がかかってそうな装飾だったが、何処にも銀の要素がない。


「あ、あった」

とアローナが小さく言った。


 後ろの飾り棚の上に、銀のスプーンがひとつ、ぽんと置いてあったのだ。


「どうも此処の部屋の名称はわかりにくいです。

 不審な侵入者になんの間が何処か知れないようにでしょうか?」

と自らも不審な侵入者であるアローナは呟く。


 そんな話をしながら、アローナは気づいていた。

 銀を探して視線を巡らせたとき、視界に入ったのだ。


 上座の横辺り、大きなタペストリーの陰に、もうひとつの扉があることに。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ