どうも此処の法則わかりづらい
「エメリア様は、私たちになにかを教えようとしてくださっています。
おそらく、ここの客に関わることで。
なので、直接、私たちに教えることはできなかった。
客の秘密をもらすことになりますからね。
だから、あのような手紙を寄越したのです。
此処で私が手伝っている間に、なにかを見聞きして知ったとしても、それは私自身が自ら知り得た情報で。
エメリア様たちが教えたことにはならないからです」
足早に歩いて銀の間を探しながら、アローナはフェルナンにそう説明する。
「私に知らせるのに、あのような上質な紙を使ったり。
私の腕を信用して、と言ってみたり。
普通ではないことを散りばめることにより、私に緊急事態であることを察知するようにしてあったのです。
アリアナ様が私を呼ばなくていいと言ったと書いてあったこともそうです。
客の秘密をもらすことになるからと、アリアナ様が止めたことを示唆していると思います」
なるほど、と言ったフェルナンは、
「ところで、問題の銀の間とは何処なのでしょうね?」
と訊いてきた。
「銀の間というからには、銀で飾り立ててあるのでしょうか」
「いやー、どうでしょうね。
黄金の間だって、何処が黄金の間なんだと思ったくらいですから。
黄金の犬が一体居ただけでしたからね……」
そう言ったとき、目の前の大きな扉が開き、中から脚つきの陶器の大皿を持って、二人の美しい女が出てきた。
「すみません。
銀の間は何処ですか?」
とアローナがその二人に尋ねると、彼女らは今出てきた部屋を振り返り、
「此処よ」
と言った。
大柄な美女の集団がやってきたので、助っ人が来たのだと思ったようだった。
忙しげに彼女らは階下へと下りていく。
「失礼します」
とアローナたちが中に入ると、いつもより数段飾り立てた美しいエメリアが居た。
数人の男たちが座っていたが、エメリアは上座に座る、布で顔を隠した男の側に座っていた。
アローナを見たエメリアは、
「誰か弾いて、誰か舞いなさい」
と命じる。
誰か、ですか。
やはり、私にはお命じくださらないのですね、とそんな場合ではないとわかっていて、つい、いじけてしまう。
「では、わたくしが」
とシャナが言い、フェルナンに美しい装飾の施された太鼓のようなものを叩かせ、舞い始める。
その舞に男たちは釘付けになっていた。
「美しいですねー。
シャナもエメリア様も。
エメリア様、いつもより麗しいいでたちですが。
……ジン様なら、見劣りしないですね」
とアローナは横に居るジンを見上げ、小声で言った。
だが、ジンは、
「なにを言う。
お前こそ美しいぞ」
と言い、アローナの手をみんなに見えない位置で握ってくる。
「……なにこんなところで、いちゃついてるんですか」
と横から文句を言ってきたフェルナンは部屋の中を見回し、
「それにしても、何処が銀の間なんですかね?」
と訊いてきた。
手の込んだ巨大なタペストリーや東洋風の陶磁器などが飾ってあり、金がかかってそうな装飾だったが、何処にも銀の要素がない。
「あ、あった」
とアローナが小さく言った。
後ろの飾り棚の上に、銀のスプーンがひとつ、ぽんと置いてあったのだ。
「どうも此処の部屋の名称はわかりにくいです。
不審な侵入者になんの間が何処か知れないようにでしょうか?」
と自らも不審な侵入者であるアローナは呟く。
そんな話をしながら、アローナは気づいていた。
銀を探して視線を巡らせたとき、視界に入ったのだ。
上座の横辺り、大きなタペストリーの陰に、もうひとつの扉があることに。