銀の間に行きな
アローナたちが娼館に到着すると、エメリアではなく、アリアナが出迎えてくれた。
娼館の前で待ち構えていたのだ。
珍しいこともあるものだ、とアローナが思っていると、
「来たのかい」
とアリアナは渋い顔をして言ってくる。
「お前たちを呼んだのは私じゃないし。
私はなにも知らなかった。
それを念頭に置いておいてくれるのなら、まあ、この店を手伝ってもいいが」
店を手伝えというのに、アリアナはそんな尊大なことを言ってくる。
だが、アローナは微笑み、
「ありがとうございます」
とアリアナに礼を言うと、丁寧にお辞儀をした。
フン、と鼻を鳴らし、自分より大きなアローナを見上げていたアリアナだったが。
「相変わらず、賢い娘だね」
と言う。
「口がきけない状態で送り込んできた奴らは正しいよ。
今にも余計なこと言いそうだ」
と毒づいたあとで、気づいたように、
「なんで、そいつらまで引き連れて来てんだい」
と後ろを見て言う。
自分を売った盗賊も旅のお供に連れてきていたからだろう。
「……銀の間に行きな。
その格好でいい。
もうちょいと露出が多い方がいいが」
とアリアナは言う。
「ありがとうございます。
あの、他の手伝いの人たちも入ってもいいですか?」
とアローナが言うと、他の手伝いって? とアリアナが見る。
遅れてついた馬車から、ゾロゾロと美女たちが現れた。
艶やかな黒髪の美女。
金髪の美女。
銀髪の美女。
明らかにカツラな感じの金髪のガッシリした中年の美女。
みんなデカイ。
「……これ以外は合格だ」
とアリアナはガッシリとした中年の美女の腕をつかむ。
「なんとっ。
嫌々この格好をしたのに、拒絶されるとはっ」
とその美女が叫び出す。
「あんたはいろいろうちにツケがあるだろ。
なにか別のことを手伝いな」
とアハトが扮した美女は連れ去られていった。
「……ツケって、馬車いっぱいの金をとっておいて、まだ払わせるおつもりなのですね」
「盗賊よりあこぎな商売だな」
と女装しなかったステファンが言っていた。
みんなで娼館の中に入り、アリアナが教えてくれた目的の場所を探して歩く。
「そういえば、銀の間って、何処でしたっけね」
と呟くアローナは、そういえば、前回、銀の間の場所がわからないのならいいと言われて、結局、たどり着けなかったことを思い出していた。
「うむ。
誰か此処に詳しいものは居ないのか」
と黒髪の美女が横で言う。
「アハト様、連れてかれちゃいましたしね」
と言いかけ、アローナはその美女を見上げて溜息をついた。
「どうした?」
と訊かれる。
「……私、女であることを返上したくなりました」
とアローナはうなだれた。
「夫となる人の方が、女としても美しいだなんて」
妻になる自信がなくなりました、ともらすと、横でその美女、つまり、アローナを心配してついてきたジンが声を上げる。
「なんとっ。
自信がなくなったということは、アローナよっ。
私の妻になる覚悟を決めてくれていたということかっ」
と抱きつこうとするので、サッと逃げる。
「アローナ!
無事にこの魔窟から帰れたら、今宵こそ、正式な夫婦となろうぞっ」
「あの……、この間、ちゃんと結婚するまで手を出さないとか言いませんでしたっけ?」
と言うアローナの後ろで、シャナが、
「そういうセリフ言う奴、大抵、死ぬんですよね~」
と笑って言っていた。
そのシャナの横で、大柄な美女に化けていたフェルナンが、
「そんなことより、私にはまだ、なにがなんだかわかっていないのですが」
と呟いていた。
説明を受ける前に、シャナに命じられた離宮の侍女たちがフェルナンを飾り立て、そのまま連れて来られたからだろう。