この国人材不足なんじゃ……
「そうだ。
とりあえず、式の準備を進めてみるか。
式までにエンを捕獲すればいいわけだし。
もし、見つからなければ、とりあえず、身代わりを立てて、式だけ済ませてしまえばよい。
そうすれば、エンは責任感の強い女だから、ちゃんと王子の妃として働かねばと思って、戻ってくるだろう」
などと言い出す兄、バルトに、アローナは、
「私なら、そんなこと画策しやがった時点で、二度と帰りませんけど、お兄様」
と言う。
そのとき、シャナが水の壺を手に離宮から現れた。
用事があるフリをして話を聞きに出てきたのだろう。
そんなシャナを見て、バルトが言う。
「おお、なんかちょうど良さそうな奴が。
お前、エンの身代わりとして、花嫁にならんか。
金ならたんまり払うぞ」
いや、誰に頼んでるんですか……と思いながらも、
さすがはお兄様。
一目でシャナがただものではないと見破っているようだ、とアローナは思う。
「お幾らほどで?」
とシャナは早速、バルトに訊いている。
「待て」
とジンが言った。
「お前、私の命を受けて、父のところに潜入中のはずだよな?
いや、すでに父の手先と貸しているようだが……。
ひとつもまともに出来ていないのに、次々仕事を引き受けるな」
「でも、花嫁の身代わりなんて、せいぜい数日のことでしょう?
他にも放っている王子の密偵に任せておいてもいいではないですか。
離宮の衛兵の人とか。
侍女の……」
いろいろとバラそうとするシャナにジンが慌てる。
ジンはなにも言っていないのに、シャナには彼らがジンの手の者だとわかったようだ。
切れ者なんだかなんだかわからない人だな、と思いながら、アローナはシャナを見ていた。
「ま、どちらかと言えば、エン様を探してこいと命じられる方が楽なんですけどね」
「いや、だから、ひとつくらい仕事を完結させてから、次にかかれ」
とジンはシャナを叱っていたが、解雇する気は特にないようだった。
なんだかんだで便利だからだろう。
いや、すぐに応じてくれるだけで、望み通り動いてくれたことは一度もないのだが……。