なにか私にご不満でも……?
「なんの手練手管も教えてなかったくせに、よくもそんなにふっかけたな」
とジンはまだアローナの値段にケチをつけている。
……教えておいて欲しかったんですか、その手練手管を、と思いながら、アローナはステファンと話すジンを見ていた。
「まあ、手数料もぼったくりですしね、あの店。
でも、その代わり、あの店の娘にハズレはないですよ。
基本、貴族の娘と変わらぬくらいの見栄えと品のある娘しか置いてないですし」
だが、ジンは、
「そんなにアローナに高値をつけられたら、私もアッサンドラにそのくらいの金を贈らねばならなくなるではないか」
と言い出す。
いや、私、人質として来たんで、あなたがアッサンドラに気を使う必要はないかと思いますね、とアローナが思ったとき、
「ほう。
では、その金は私がもらおうか」
と声がした。
何処からともなく、兄、バルトが湧いて出てきていた。
供の者を引き連れ現れたバルトは、アハトに案内されてきたようだった。
「お兄様、どうされたんですか」
「いや、エンに逃げられたのだ。
来てないか」
「来てませんよ、なにやってんですか。
そもそもエンは私の侍女にと旅してきたはずなのに。
喧嘩などしてエンを不快にさせるのなら返してください」
とアローナはバルトに文句を言う。
「義弟よ。
こんなこうるさい妹を嫁としてもらっていいのか?」
とバルトは、今、アローナの代金をふんだくろうとしたくせに、ジンに向かい、そう確認した。
おのれの顎を撫でながら、首をかしげて言う。
「まあ、妹とはいっても、滅多に会うこともなかったので。
真実、どんな性格で、どんな風に暮らしていたのかよく知らないのだが」
どんな兄妹だ、という目でジンは見るが。
まあ、国によっては、それぞれの城に生まれたときから住んでいて、家族が顔を合わせたことがない、という一族などもあるようなので。
王族や貴族というのは、所詮、そんなものだろうと、アローナは思っていた。
「ところで、お前たちの式はいつなんだ」
とバルトがジンに問う。
「ああ、日取りはまだですが。
ぜひ出席されてください」
「ああそうだな。
私ならいつも砂漠辺りの国をうろうろしているので、気軽に来られるからな」
「そういえば、お兄様の式はいつなんですか」
とアローナは訊いてみた。
「エンか。
まあ、帰ってこないことにはな……」
とバルトは空を見上げ、遠い目をして言う。
エンはあまり裕福ではない子爵の娘なのだが、たどっていけば遠縁に公爵家もある。
その公爵がバルトと縁続きになった方が有利なので、エンを自分のところの養女ということにしてもよいと言っている。
そんなにエンと兄との結婚に支障はないはずだった。
……エンの気持ちの方に支障があるかもしれないが、とアローナが思ったとき、兄がアローナを見て言った。
「しかし、エンが私の妻になれば、お前の髪をすく人間がいなくなるな」
「いや……お兄様がエンを連れ去ってしまったので。
今現在、すでに他の人がすいてますから大丈夫ですよ」
エンがこの呑気な兄に呆れなければ、話はすぐに進むはずなのだが。
出て行ってしまっている時点で、進みそうにもないな、とアローナは思っていた。