そのとき、それはやってきた
久しぶりに人と会話できて、ちょっと嬉しかったけど。
シャナは今も何処からか、ジン様を狙っているのだろうか。
いや、ジン様を狙いたいな、と思いながら、何処からか見ているのだろうか。
そんなことを思いながらアローナが周囲を窺ったとき、
「風が強いぞ、気をつけろ」
と言って、ジンがアローナの手を取ってくれた。
アローナはジンに案内され、高い塔の上に出ていた。
西の方の国にあるような石造りの高い塔だ。
城門の遥か向こうまで見える。
荒涼とした土地の向こうに、また町があったり、砂漠があったりする。
自分の旅に付き添ってくれていた面々の姿を探すように、アローナは砂漠の方を眺めた。
ん? なにか黒いものが来る、とアローナが目を細め、砂漠の上空を見たとき、
わあああああっと近くで声がした。
アローナがいきなり身を乗り出したので、ジンが押されて、塔から落ちかけたのだ。
女性は高いところが苦手と思っているらしいジンは、アローナが前へ出るとは思っていなかったらしく、ギリギリのところまで出ていたようだった。
なんとか踏みとどまったジンが振り返り、叫ぶ。
「今、俺を突き落とそうとしただろうっ。
お前、やはり刺客だなっ?」
ひーっ。
たまたまなんですけどーっ!?
アローナはグッとジンに肩をつかまれた。
「……お前の正体はなんだ。
俺を惑わそうとする娼婦か。
それとも、刺客か」
そう言いながら、ジンが詰め寄る。
塔の端に追い詰められたアローナはチラと下を見た。
ひーっ、高いっ。
別に怖くはないけど、落ちたら、まず死ぬだろう。
あ、あの辺りに引っ掛かったら大丈夫かな。
いやいや。
そっちの木の上に落ちるように飛距離が出そうな感じに落ちるとか。
いや、どうやってっ、とアローナが下を窺ったとき、ジンが叫んだ。
「飛び降りて逃げる気かっ」
いや、此処、飛び降りたら死にますよっ。
刺客でも死にますよっ。
貴方、刺客をどれだけ万能だと思ってるんですかっ。
彼らも無敵ではないんですよっ。
シャナなんて、貴方を殺す理由が欲しいと私に頼んできたくらい、なにかに縛られてますよっ、
と思ったとき、それはやってきた。