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さらに働いてみました


「あっ、ジン様っ?」


 広間に新たな料理を取りに行ったアローナは、そこにジンも居るのに気がついた。


 さっきから、二人とも各部屋を往復していたのだが、ちょうどすれ違い、出会えていなかったのだ。


 というか、恐らく、エメリアが長く働かせるために、上手い具合に二人を出会わせなかったのだろう。


 ジンは顔を隠すため、仮面舞踏会でつけるような面をつけていたが、アローナにはすぐわかった。


 ……もしや、これは愛だろうか、とアローナは思う。


 そのとき、ジンも思っていた。


 アローナは顔を隠すようにベールをつけているが、俺には一発でアローナだとわかってしまった。


 もしや、これは愛だろうか、と。


 だが、一緒に働かされている兵士たちが聞いていたら、


「いやいや」

と手を振っていたことだろう。


「その扮装、ほとんど顔、見えてますから、王よ」


 そう言って。


 二人が出会ってしまったので、エメリアは舌打ちしていた。


「アローナ、迎えに来たぞ、帰ろう。

 城から逃げ出すなどと、俺になんの不満があったのだ」

とジンが言ってくる。


「いえ、ジン様に不満があったわけではないのです。

 私が王妃としてやっていけるか、不安になっただけで――」


 アハト様がいろいろ言うから、という言葉をアローナは呑み込んだ。


 アハトが叱られては申し訳ないな、と思ったからだ。


「そのようなことは心配せずともよい。

 お前が側に居てくれるだけで、俺はなんだか……


 し、幸せなのだ。


 心がほっこりするというか。


 かつてない穏やかな気持ちになれるのだ」


 だが、その背後で兵士たちが、


 よくこんな次々騒ぎを起こす人を側に置いて、穏やかな気持ちになれますね、とでも言いたげな顔をしていた。


「……ジン様」

とアローナはジンの手を取りかけたが。


 待った、とばかりに、エメリアが二人の間に孔雀の羽根でできた扇を差し込んでくる。


「アローナ、あんたの楽器の腕を聞きつけた客が、面白いから弾いてみろって言ってるのよ。

 それ弾いてから帰りなさい」


 それを聞いたジンが激怒する。


「なんだと!?

 我が妻に恥をかかせようと言うのかっ」


 ……待ってください、ジン様。


 怒るべきところは、我々がずっとタダ働きさせられているところで、そこじゃないです。


 第一、何故、私が楽器を弾くと、恥をかかされることになるのですか。


 あなたが一番私を突き落としてますよ、と思いながら、アローナは聞いていた。


 だが、ジンは、


「アローナ。

 お前だけに辛い思いはさせられない。


 俺も共に演奏しよう」

とアローナの手を取り、言ってくる。


「はいっ、なんでもいいから早くしてっ」

と仕切るエメリアに急かされ、ふたりは客の前に連れ出された。


 仕方がないので、アローナはカーヌーンでロバを踏み殺しながら歌い、ジンは見事な笛を吹いた。


「……なんかすごい豪勢な演奏会になってますね」

と入り口から覗く兵士たちが呟いていた。




「はい、お給金」


 ようやく帰れることになったアローナとジンは、エメリアから兵士たちと同額の小銭をもらった。


 手のひらに数枚の硬貨を載せられたアローナは、ジンと二人、顔を見合わせる。


 ……ちょっと嬉しい。


 アローナがにんまり笑っていると、ジンが言ってきた。


「アローナ。

 城下の夜店なら、まだ開いてるぞ。


 寄って帰ろうか」


「そうですねー。

 あ、私、ピンク色のぐるぐるしたお菓子が好きです」


「なんだ。

 ピンク色のぐるぐるしたお菓子って」

と話しながら、二人で馬車に乗る。


 さよーならーと馬車の中から娼館のみんなに手を振るアローナたちを見送りながら、エメリアが呟いていた。


「あれが王と王妃か。

 ……平和な国になりそうね」

と。





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