達者でな
「アローナよ。
窮地に陥ったところを私に助けられたと、兄に言うのだぞ」
娼館の前で、レオがそう確認するように言ってきた。
えっ?
助けられましたっけ?
とアローナは思ったのだが。
まあ、街への道を教えてくれたのは、レオ様だしな、とも思う。
……でも、遭難したの、あなたにかっさらわれたからなんですけどね。
そう思いながらも、
「わかりました。
言っておきます」
とアローナが言うと、
「うむ。
では達者でな」
とレオは帰ろうとする。
「あれっ?
おひとりでお帰りになられるんですか?」
「ジンも此処までなら、お前を迎えに来そうだからな」
怒られたくないから帰る、とレオは子供のようなことを言う。
……怒られるようなことをした自覚はあったんだな、とアローナが思っていると、盗賊の頭も、
「我々も怒られそうだから、帰る。
エメリア、王にアローナが此処に居ると報告してくれ」
と言い出した。
「王様呼ぶより、あんたたちが連れて行った方が早いんじゃないの?」
とエメリアには言われていたが。
「頭、お世話になりました」
とアローナが前に進み出て言うと、
「いや、こちらこそ世話になった。
お前に習ったこと、忘れはせぬぞ。
今後の活動にいかそう」
と頭は満足げに笑い、言ってくる。
今後の活動って……盗賊団の?
と思っている間に、
「またな、アローナ。
よし、行くぞ、お前ら」
と頭はインコを肩に乗せ、去って行こうとする。
……そういえば、そもそもの始まりは、この人たちにさらわれたことだったような気が、とアローナが思ったとき、レオが頭たちに言った。
「盗賊、私を送っていけ。
島の方に流れ着いていた兵たちに迎えの者を差し向けねばな」
「いや~、もうアハト様たちが助けてそうな気がしますけどね」
と言いながら、アローナは彼らを見送る。
娼館で借りたラクダに乗るレオたちの影が砂漠の方に消えていった。
振り向いたエメリアが言う。
「さ、アローナ。
迎えが来るまで働いて」
「ええっ?」
「だって、暇でしょう、ただ待ってるのも。
働いて」
「でもあの、またそんなことしてたら、ジン様に叱られま……」
「ジン様が叱ったら、レオ様にジン様を叱ってもらうわよ。
だから、働いて」
とたたみかけるように言われ、アローナはつい、……はあ、と返事をしてしまった。