また何処かに流れ着きました
「なんということだ。
ジン様にご報告しなければ……」
また怒られる、という顔でアハトは呟いた。
「ところで、お前は何故、この船に乗っておるのだ」
とアハトはいつの間にか船に乗り移っていたシャナを見る。
えっ? と肩に鷹をのせたシャナが振り向いた。
「いや~、なんかすごい勢いで行ってしまったので。
付いて行きそびれまして。
あと、王に言い訳をしないと行けないかと思って、この船に」
「……言い訳するより、アローナ様についいて行った方がよかったのではないか?」
そうかもですね~とちゃっかり金貨の入った袋を手にシャナは言う。
「やあ、向こうの空の色が悪いですよ。
嵐ですかね~」
とアローナとレオを乗せた船が消えた方角をシャナは見た。
少なくとも、その肩の鷹はアローナ様に預けた方がよかったのでは、と思っていたが。
もうなんだか言うのも面倒くさく、アハトはただ溜息だけをついた。
「困りましたね~。
んごんごの葉がありません」
海岸に生えている木々をアローナは見上げていたが、椰子の木っぽいものしか此処にはなかった。
「なんだ、んごんごって」
「大きな葉っぱの木なんですよ。
木なのかな?
よくわかんないですけど。
木かデッカイ草みたいな。
さっきの島にはいっぱいあったのに」
「それでなにをするのだ?」
「家を作るんですよ。
って、レオ様、まったく動かないですねっ」
とアローナは椰子の木陰に横になっているレオを見る。
そのうち楽器でも出してきて、優雅に弾き語り始めそうだ。
諦めにも似た気持ちで、アローナは海の方を見た。
雲は晴れ、燦々と日は照り、船は木っ端微塵になっている。
一緒に船に乗っていた兵士たちは向かいの島に流れ着いたようで、向こうから旗らしきものを振っているのが小さく見えた。
それに手を振り返すアローナにレオが言う。
「ジンと二人だったら、まるで二人きりの婚前旅行のようだったろうにな」
「そうですか。
では、今は家族旅行ですね」
と適当に流しながら、アローナは島を見た。
自分では泳いでいくのは無理そうな距離だ。
そして、砂漠に囲まれたメディフィスの兵たちは泳げないようだった。
やれやれ、とアローナはまた、なにかめぼしいものはないかと海岸を探しはじめた。
大きな流木を引きずろうとして、振り向く。
「いや、無理だ」
とまだ、なにも言ってはいないのに、しどけなく横になっているレオが言った。
「私は女性より重いものは持ったことがない」
「それ、けっこう重いですよね……」
少なくともこの流木よりも、と言いながらアローナは思っていた。
この元王様、盗賊よりも使えない……。