そんな回りくどいことしなくても
盗賊は特に恐ろしい思いはしていなかった。
むしろ、アローナに感謝していた。
アローナのおかげで簡易の宿が作れたし。
アローナが見つけてきた、ふかふかした毛の大きな葉っぱを敷き詰めたおかげで、心地よく寝られたからだ。
「うむ。
体力は万全だ。
これでいつでも戦える」
と常に戦闘態勢の頭が言い出す。
いや、誰と……?
と思っているアローナに向かい、頭は言った。
「ありがとう、アローナよ。
我々が間違っていた。
我々は文明に溺れ、なんでも買うか奪うかして、調達して済ませていた。
だが、こうして大自然の中、自らの手で快適な住まいを作り出すこともできるのだな。
お前を見倣い、少し野生に返って、どんな状況でも生きていけるような逞しさを身につけることにするよ」
……私に倣って、野生に返って逞しくなるの、おかしくないですか?
とアローナは思っていたが、せっかく感謝されているのだから、黙った。
「ところで、少し離れたところから、こちらを窺っているあの船はなんだ?」
と頭は後ろに広がる大海原を指差す。
一隻の大きな船と、二隻の小型船が、近くに停泊していた。
アローナは目を細めてそちらを窺いながら言った。
「……あれはですね~。
たぶん、メディフィスの船ですよ」
こっそりやってきたつもりらしく、紋章などは掲げていなかったが、たぶん間違いない。
今、小型の船に移ったシャナらしき人物が、両肩に鷹とインコを乗せて、こちらに向かってきているからだ。
……この場所を知らない頭のインコはともかく、うちの鷹はなんで自力で飛んで戻ってこないんだ。
船に乗り、シャナの肩に乗り、楽してやってこようとしている。
奴は、すでに伝令鷹ではない……と思ったとき、鷹とインコとともにシャナが島に上陸してきた。
「やあ、なんか村っぽいものができてますね」
と海岸沿いに、ずらりと並んだ木と葉っぱの小さな家を見てシャナは呟く。
「ごめんなさい、手間かけさせて。
ありがとう、シャナ」
とアローナが言うと、シャナは、
「いえいえ。
お安い御用です。
たっぷり報酬もいただきましたしね。
さあ、このインコに書簡をつけ、飛ばしてください」
と言いながら、頭にインコを渡した。
「そこで兵たちが待ってますので。
あそこまでインコを飛ばしてください。
すぐに助けが来ますから」
と船を指差す。
「……いや、もういい。
そんな周りくどいことをしなくても」
と待機中の船を見ながら、頭は言った。
「ありがとう、アローナ。
私とインコのメンツを立ててくれて」
と頭はアローナの手を握ってくる。
「今度なにか困ったことがあったら言え。
いつでもお前のために働こう」
「頭、ありがとうございます」
とアローナは微笑み、言ったが。
シャナが船の方を振り向きながら、頭に言っていた。
「でも、今はとりあえず、あなたの方が困ったことになってますよ。
ジン様に命じられた兵たちが矢であなたを狙ってますからね。
……此処に殺し屋がいるのにねえ」
そう呟いていた。