……そうだったらいいですね~
「アハト!
お前はなにをしておったのだっ。
お前がついていながら、アローナを逃がしてしまうとはっ」
レオに比べると、ずいぶん温厚な王であるジンもアローナの失踪により、怒り心頭に発していた。
「お言葉ですが、王よ」
最初は自らの失態に神妙な顔をしていたアハトだったが、すぐにそう言い返してこようとする。
アハトよ。
お前が父上に連れていってもらえなかったのは、そうやって一言言わねば気が済まないところが疎んじられたからじゃないのか、とジンは思う。
そして、そんなアハトをなんとなく側に置いている自分の方が、やはり、父より人がいいようだ、と思っていた。
謙るでもない態度で、広間に立つアハトは、
「こういう場合、逃げられる方にも問題があるんじゃないですかね?」
と言い放つ。
「なんだと?」
「ジン様がアローナ様をメロメロにしていたら、逃げなかったんじゃないですか? と申しておるのです」
うっ、とジンは詰まった。
「ジン様に不満があったから逃げたんでしょうよ。
さっさと手籠めにして、メロメロにしとかないから、こんなことになるんです」
そこで、側に控えていたフェルナンがぼそりと呟く。
「メロメロになりますかねえ」
また此処にも余計な一言を言う奴が、と思いながら、ジンはフェルナンを横目に見た。
「ジン様は女性の扱いに慣れておられませんからね。
ムードもへったくれもなく、迫りそうなんで、余計にアローナ様、逃げてしまいそうですよ」
「ぶ、無礼な者どもめっ。
普通の王なら斬り殺しているところだぞっ」
自分としては充分奴らを脅したつもりだったのだが。
周りに控えている兵たちの顔には、
……殺さないんだ。
やっぱり、殺さないんだ。
ジン様だもんな~とハッキリ書いてあった。
「だ、だいたい、アローナが私を嫌って逃げたとは限らないだろうっ」
「ほう。
では、何故、アローナ様は逃げられたと思うのです?」
と答えを強要する家庭教師のように、アハトは言ってくる。
「あ、愛が深すぎて逃げたのかもしれん……」
「意味がわかりません」
「あるじゃないか、ほら。
好きになりすぎて、他のことが考えられなくなりそうで、怖いとかっ」
「それはアローナ様じゃなくて、今のジン様の状態ですよ。
ちなみに、アローナ様のことしか考えられなくなっているのは、好きすぎてじゃなくて。
次になにをするかわからなくて、ハラハラしているからですけどね。
どうでもいいですけど。
さっさと迎えを出してください。
あの方、放っておくと、なにをしでかすかわかりません。
メディフィスの恥になります」
とアハトは遠慮会釈なく、今、此処には居ない次期王妃をなじる。
「わかっているっ。
だが、アローナは何処に……」
と言いかけたとき、
「アローナ様の居所、買いませんか?」
と声がした。
見ると、右肩にオウム、左肩に鷹を乗せた大柄な美女がアーチ状の広間の入り口に立っていた。
シャナだ。