いや、私がニセモノというわけではないのですが
「あなたがホンモノの刺客なんですか?」
と口をぱくぱくさせてアローナは訊いた。
その美女は唇の動きが読めるらしく、
「……すると、ニセモノは何処に」
と言ってきた。
「いえいえ。
私、今、刺客ではないかと疑われてまして」
とアローナが説明すると、
「そうですか。
でも、アローナ様は前王の妃となるはずだった方、ジン様にとっては母も同然でしょう。
そんなことを疑うのは無礼ではないですかね?」
と美女は言う。
いや、ジン様の母とか言われる方が刺客だというより、抵抗があるのですが……。
っていうか、私がアローナだとジン様たちは知りませんしね、と思っていると、
「そんな王などいらないと思いませんか?」
と彼女は言ってきた。
「そうだ。
ジン様を殺してみましょう」
「え、私がですか?」
「いいえ。
私にちょっと命じてくださるだけでいいのです」
「実は私、前王を殺せと命じられて此処に来たのですが。
潜入した途端、前王はジン様に追いやられてしまい、やることがなくなってしまったのです」
刺客がやることがないというのはいいことのような気がしますが……。
「もしや、側室とかになって、潜入されたのですか?」
まだ口をぱくぱくさせて、アローナは訊いたが、
「アローナ様。
私は側室にはなれません」
と彼女は言う。
「何故ですか?」
「私、男だからです」
そうその美女は言った。
「も、申し訳ございません。貴女があまりにお美しかったのでっ」
と慌ててアローナが言うと、彼は、
「大丈夫です。
お気になさらずに。
私、女になって潜入することもございますので」
と言ってくる。
シャナという名だと彼は名乗った。
「アローナ様、どうぞ、私に王を殺せと命じてください」
「いやいや、なんで私に言うんですかっ」
「誰かが命じてくださらないと、私には王を殺す理由がないからです」
「じゃあ、殺さなくていいんじゃないですか?
っていうか、なんで殺したがるんですか」
「誰かを殺すか、付け狙うかしとかないと、私が此処に存在している意味がわからなくなるからです。
なので、王を殺せと命じてください、アローナ様」
とシャナに手を握られる。
「いっ、いやいやいやっ。
特に殺す理由はないですからっ。
そんなことより、申し訳ございませんが、私がアローナだとジン様に伝えてくださいませんか?」
と言ってみたのだが、口をぱくぱくさせている金魚のような動きをするアローナに、シャナは、
「嫌です」
ときっぱり言ってきた。
「なんでですかーっ」
「ジン様を殺せと命じてくださったら、ジン様たちにアローナ姫の正体を教えてもいいですが?」
「ええっ?
そんな弱みにつけ込むみたいなっ。
っていうか、その瞬間、おそらく、ジン様死んでますよね~っ?」
いやいやっ、まあまあまあ、と二人は、しばらく押し問答をしていた。