表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/81

一応、忠実な家臣なんです


 まだ世も明けきらぬころ、フェルナンはジンたちのいる部屋の扉の前にしゃがみ、うつらうつらとしていた。


 非常時の見張りなら、こんなことはないのだが。


 ある意味、どうでもいいジンとアローナのねやの見張りだ。


 独り身の男がやって楽しいことではない。


 もっともそんなことを重臣たちに聞かれれば、

「お世継ぎに関わる問題だぞっ。

 なにがどうでもいいなんだっ」

と怒られるところだろうが。


 いきなり扉が開いて、ごすっと背中にぶち当たる。


 振り返ったフェルナンは眠い目をこすりながら訊いた。


「……ジン様、首尾よく行かれましたか?

 ご機嫌ですが」


「うむ。

 今朝はいい朝だな」

とジンは大層爽やかな顔をしていた。


「ほう。

 ついに、アローナ様と真の意味でご夫婦に?」


 そうフェルナンは訊いたが、ジンは眉をひそめ、

「……お前、そこで見張ってたんじゃないのか」

と訊き返してくる。


 中の様子を窺っていたのではないのかと言いたいようだ。


「いえいえ。

 私、今日は、王がお逃げにならないよう見張ってただけなんで。

 それでどうだったんです?」


 うむ、と頷いたジンは嬉しそうに言ってきた。


「説得の甲斐かいあって、アローナは娼館から送られてきたあの衣装を身につけてくれたのだ」


「ほう、それで首尾良く事が運んだのですか?」


「いや、特に」


「……なんのために着せたのですか、王よ」


 脱がせるために着せたのではなかったのですか、とフェルナンは訊いたが、


「アローナが着たところを見たかったから、着せてみただけだ。

 朝、忙しいのに、なにもできるはずもあるまい」

とジンはしゃあしゃあと言う。


「着せただけで満足なさったということですか?」

いささか呆れてフェルナンが問うと、


「いや、そんなわけないであろう。

 私を甘くなるな」

とジンは反論してきた。


「着せて満足したのではない。

 着て恥じらう姿が可愛かったので満足したのだ」


 そう誇らしげにジンは言ってくる。


 ……なんという阿呆な新婚夫婦だ、とフェルナンは思っていた。


 口に出して言うのは不敬だとわかっていたが、その言葉は、もう喉許まで出かかっている。


 慌てて咳払いし、フェルナンは出かけた言葉を追いやった。


 まあ、そういうところが、ジン様の可愛らしいところではあるのだが。


 そう思ったとき、太い柱の近くまで来ていたアハトが、やれやれ、という顔でこちらを見ているのに気がついた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ