一応、忠実な家臣なんです
まだ世も明けきらぬころ、フェルナンはジンたちのいる部屋の扉の前にしゃがみ、うつらうつらとしていた。
非常時の見張りなら、こんなことはないのだが。
ある意味、どうでもいいジンとアローナの閨の見張りだ。
独り身の男がやって楽しいことではない。
もっともそんなことを重臣たちに聞かれれば、
「お世継ぎに関わる問題だぞっ。
なにがどうでもいいなんだっ」
と怒られるところだろうが。
いきなり扉が開いて、ごすっと背中にぶち当たる。
振り返ったフェルナンは眠い目をこすりながら訊いた。
「……ジン様、首尾よく行かれましたか?
ご機嫌ですが」
「うむ。
今朝はいい朝だな」
とジンは大層爽やかな顔をしていた。
「ほう。
ついに、アローナ様と真の意味でご夫婦に?」
そうフェルナンは訊いたが、ジンは眉をひそめ、
「……お前、そこで見張ってたんじゃないのか」
と訊き返してくる。
中の様子を窺っていたのではないのかと言いたいようだ。
「いえいえ。
私、今日は、王がお逃げにならないよう見張ってただけなんで。
それでどうだったんです?」
うむ、と頷いたジンは嬉しそうに言ってきた。
「説得の甲斐あって、アローナは娼館から送られてきたあの衣装を身につけてくれたのだ」
「ほう、それで首尾良く事が運んだのですか?」
「いや、特に」
「……なんのために着せたのですか、王よ」
脱がせるために着せたのではなかったのですか、とフェルナンは訊いたが、
「アローナが着たところを見たかったから、着せてみただけだ。
朝、忙しいのに、なにもできるはずもあるまい」
とジンはしゃあしゃあと言う。
「着せただけで満足なさったということですか?」
と些か呆れてフェルナンが問うと、
「いや、そんなわけないであろう。
私を甘くなるな」
とジンは反論してきた。
「着せて満足したのではない。
着て恥じらう姿が可愛かったので満足したのだ」
そう誇らしげにジンは言ってくる。
……なんという阿呆な新婚夫婦だ、とフェルナンは思っていた。
口に出して言うのは不敬だとわかっていたが、その言葉は、もう喉許まで出かかっている。
慌てて咳払いし、フェルナンは出かけた言葉を追いやった。
まあ、そういうところが、ジン様の可愛らしいところではあるのだが。
そう思ったとき、太い柱の近くまで来ていたアハトが、やれやれ、という顔でこちらを見ているのに気がついた。