私の後宮に入れてやろう
「では、達者でな、アローナ。
もし、私が城に返り咲くまでお前がジンの後宮にいたら。
アッサンドラには送り返さず、私の後宮に入れてやろう」
そうアローナはレオに言われた。
いえいえ、結構です……。
っていうか、返り咲くおつもりなんですか?
といささか不安になりながら、ははは……とアローナは笑ってごまかそうとする。
「そうだ。
もしも、お前がジンに飽きて、他の男の許に行きたくなったら。
今日の礼に、ジンの気がお前からそれるような良い女を見繕って送ってやろう」
……送らないでください。
私はジン様で間に合っています。
とジンよりもフェルナンが聞いたら、激怒しそうなことをアローナは思う。
「間に合ってますってなんですかっ」
と。
「そういえば、私の後宮にも新しい女が参って、なかなか楽しいぞ。
実に上手くカーヌーンを弾く美しい女なのだが」
シャナだな。
シャナですね、とアハトと目を合わせて、アローナは頷き合う。
「……女のようで女ではないので、ま、手は出してはおらぬのだが」
さすが……。
バレバレのようですな、とまた目だけで会話する。
「私から見たらぬるい王だが、民や臣下はジンでよいのだろうな。
アハトももう私を王とは呼ばぬし」
アハトが言われて気づいたようで、ハッとしていた。
いつもご機嫌伺いに言っては、王よ、と話しかけていたのだろう。
そういえば、さっきから、レオ様と言っている。
アハトは弁解はせずに、黙って頭を下げていた。
レオはといえば、別に怒るでもなく、どうでも良さそうだった。
警護のものを引き連れ去っていくレオを見送っていると、アリアナが言ってくる。
「もう王室御用達と看板をかけるかね」
「や、やめてください……」
メディフィスの品位を疑われるので、とアローナは青くなる。
「なんだい、あんたたちも帰る気かい?」
とこちらを見てエメリアが言ってきた。
「もうちょっと働いていきなよ。
アローナもアハト様も通訳とかできるだろ。
よその国の人間が来たときに助かるから」
「雰囲気で話せますけど、読み書きはあまりできないので」
「この私がそんなことしたら、国の名折れになるだろうが」
と二人で言ったあとで。
「……待ってください、アハト様。
私の場合、名折れにならないのですか」
とアローナはアハトを見る。
「いやいや。
アローナ様はまだ式もしておらぬので、メディフィスの王妃だとは誰も知らないからいいでしょうが」
それはそうですけどっ、と二人でまた揉めはじめた。