おやめくださいっ、アローナ様っ!
アハトはアローナの腕前を聞き及んでいるようだった。
「お、おやめくださいっ、アローナ様。
それだけはっ」
「カーヌーンを」
「おやめくださいっ」
と芸妓たちにカーヌーンを持って来させようとするアローナをアハトが止める。
「では、アハト様、お弾きくださいますか?」
「……弾けるわけないであろう」
とアハトは敬語を崩して強気に言ってくる。
芸妓たちも異国の楽器であるカーヌーンは弾けないようだった。
「シャナがいないと不便ですね」
と言いながら、アローナは自分でカーヌーンで伴奏しながら、調味料の歌を歌う。
しかし、なにぶんにも不器用なので、歌ったあとで、伴奏。
歌ったあとで伴奏、と言った感じになり、同時にはできない。
何度も歌の合間にロバが踏み殺されたあとで、アローナは礼をし、演奏の終わりを告げる。
レオは頷き、手を叩いて言った。
「うむ、素晴らしいな。
今回はその腕前に免じて、ジンに手出しするのは勘弁してやろう」
アハトが、ええ~? 正気ですか? レオ様、という顔をしていた。
「いや、なかなかすごい演奏であったぞ。
あんなものを人前で平気で演奏するとは。
しかも、夫の命がかかった切羽詰まったこの状況で。
この娘、並の神経ではないな。
アハトよ。
お前の人を見る目は確かなようだ」
とレオは言う。
アローナは、
「ありがたき幸せ」
と言い、礼をした。
「いやいやいや。
なにがありがたいんですか、アローナ様。
すさまじく演奏をなじられてますが」
演奏する方も演奏する方なら、評価する方も評価する方ですよ、とアハトは言ってくるが。
「結果よければ、すべてよしです、アハト様」
とアローナは言い切る。
レオは、ひと笑いしたあとで、
「だがまあ、確かに歌は素晴らしかった。
歌の内容はともかく、胸に迫る歌い方であった。
調理中なにがあったのだろうなと、こちらの妄想をかきたてるのもよいな」
と言ってきた。
いや、それは考えすぎです、レオ様、とアローナが思ったとき、
「よし。
ひとつ私が演奏してやろう」
とレオが言い出した。
「歌え! アローナ」
と言うと、レオはカーヌーン を自らの許に引き寄せ、弾きはじめた。
まだ、ええ~? という顔をしているアハトの前で、レオが弾き、アローナは歌い出す。