お酒の席で、もてなしてみました
「ほう。
アハトが護衛とは、これはまた豪勢なことだな」
用意された酒宴の席で、アローナはレオの隣に座らされていた。
アリアナに金を請求されていたせいで、隠れそびれたアハトも一緒に。
いえいえ。
はあはあ、まあまあ、とアハトはよくわからないことを言って、ジンのために、アローナについて此処に来たことを誤魔化そうとしている。
そういえば、アハト様は、もともとレオ様の重臣で、どちらかと言えば、ジン様の反対勢力だったのでは……。
「……ジンの評判は良くもあり、悪くもありだが。
お前のような計算高いやつがジンにつくとは。
ジンにも少しは見所があるということかな」
と言うレオに黒地に金の装飾の酒壺から酒を注ぎながら、アローナは問うた。
「ジン様の悪い評判とはなんですか?」
「人が良すぎるということだ」
「王様は人が良すぎては駄目なのですか?」
レオはチラとアローナを見、
「お前の父親のように、民を傷つけまいとして。
戦ってみもせずに、娘を差し出すハメになったりするだろうが」
と言ってくる。
うっ。
「やさしすぎると家族も守れない。
そして、結果的に民も守れないこともある。
ジンは私に比べて温厚だということは、商人たちを通じて各国に広がっていくことだろうよ」
奴らの情報網はすごいからな、と言う。
「今だとばかりに、反旗をひるがえして、上に立とうとする同盟国も出てくるやもしれぬ。
王は冷酷すぎるくらい冷酷でなければ。
そして、そういう噂が近隣諸国に轟くくらいでなければ、ほんとうの意味で国を守ることはできんのだ。
まあ、民はジンの方を支持しているようだが。
何処かの国に攻め込まれれば、いずれ考えも変わるだろう。
そもそも、私を殺していない時点で、ジンは甘い」
「そうかもしれませんが……。
私は、そんなジン様の方が好きですね」
「ほほう。
お前は、ジンにベタ惚れなわけだな」
「いっ、いえっ。
そういうわけではないのですがっ」
「レオ様」
とアハトがレオの前に進み出る。
「私も別にジン様についたわけではありませんぞ。
心はいつもレオ様とともにあります」
あっ、チクリますよっ、とアローナはアハトを睨むが、アハトは知らん顔をしていた。
まだまだレオが勢いを盛り返す可能性もあると見て、媚を売ってみたのだろう。
「そうか。
わかった。
お前のその適当な忠誠心、一応、心には留めおくが。
ジンに言われて、のこのこ、こんなところまでジンの愛妻の警護をしてきているようではな」
「……では、アローナ様を此処に置いて帰ったら、わたくしの忠誠心を認めていただけるのですかな」
置いて帰る気かっ。
「ほう。
命じればやるか」
とレオは笑ったが、意外にもアハトは、
「……いいえ」
と言った。
「いいえ?」
とレオが訊き返す。
「やはり、それは無理ですね。
私はジン様に仕えているのではありません。
アローナ様に仕えているのですから」
えっ? そうだったのか?
と思ったとき、レオが笑い出した。
「なるほど。
ジンよりこの娘の方が見所があるというわけだな」
「さようで」
それは愉快だ、と言ってレオは酒を呑む。
そこに、他の酒宴から戻ってきた、とびきり上等な娼婦たちが現れたが、
「いや、今日は良い」
と言って、レオは返してしまった。
「面白い出し物を見られたから、満足だ」
いや、出し物はなにもしてませんけどね、と思ったとき、レオはこちらを向き、
「アローナよ。
ついでに、なにか芸事でもして、私を楽しませろ。
今日はそれで帰ってやろう。
見事であったら、しばらくジンには手出しをすまい」
と言ってくる。
「わかりました。
では、カーヌーンを」
アローナの言葉に、ひっ、とアハトが息を呑む。