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伝えたいことがあるんですけど……



「アッサンドラのアローナ姫か。

 そういえば、父の許にやってくる途中だったな」


「ええ。

 忘れてましたね」

とジンと騎士が話すのを聞きながら、


 ……もう帰っちゃおっかなーとアローナは思っていた。


 メディフィスに攻め込まれないよう、アッサンドラは前王の要求を飲み、姫を人質として後宮へと送ったのだが。


 遠いからな、メディフィスは……。


 メディフィスに向かい、旅をしている間に、情勢は変わり、アローナはもう此処に来なくてもよくなっていたようだ。


 じゃ、失礼して、とアローナは寝台から下りようとしたが、後ろに目でもあるのだろうか。


 ジンはすぐに振り返り、

「待て」

と手にしていた長剣をこちらに向けた。


 騎士が、大変ですっ、とドアを叩いたときにつかんでいたようだ。


「何処へ行く、娘。

 まだなにも終わってないぞ」


 いや、なにもはじまらなくて結構です。


 はじめ方もわかりませんしね、とアローナは思っていたが。


 貢ぎ物の娼婦だと思われている自分の命など、簡単に散らされてしまいそうなので、ピタリと止まる。


 こちらを窺っていた騎士が小声でジンに言うのが聞こえてきた。


「ジン様、あの娘は危険です。

 アハト様が送り込んできたんですよ。


 刺客かもしれません」


「アハトは莫迦ばかではない。

 私を殺したところで、今更、父が王に戻ることなど不可能だとわかっているだろう」


「誰か他のアハト様に都合のいい王候補を担ぎ出すつもりかもしれないじゃないですか」


「アハトに都合の良さそうな人物など、今、いないだろう。

 だが、まあ。

 警戒しておく方がよいか」

とジンが油断のない目でこちらを見る。


「では、その娘、こちらでお預かりしておきましょうか」

とジンの後ろから騎士が言うと、ジンは彼を振り返り言った。


「何故だ」


「いやだって、危険じゃないですか。


 アハト様の手前、一応、受け取りましたけど。

 もう飽きたとか言って、始末しちゃった方がいいんじゃないですか? その娘」


 ひいっとアローナは息を呑む。


「アハト様もなにも言わないと思いますよ。

 ああ、自分の悪事がバレたんだなと思って沈黙するだけですよ。


 まあ、アハト様のことだから、懲りずに、すぐ次の娘を送ってくるかもしれませんけどね」


 さあ、渡しなさい、という感じに騎士はジンに迫ったが、

「……いや」

とジンは言う。


「……いや?」

と騎士が強めに訊き返していた。


 気のせいだろうか。

 時折、騎士の人の方が上に立って物を言っているときがあるような……。


 年齢がジン様より上のようだから、王子であった頃のジン様のお目付役だったのかもしれないな、

とアローナが思ったとき、ジンは事を急ぐ騎士を止めるように、


「いや、待て」

と言った。


「殺さぬ方がよいだろう。


 この娘が刺客なら、アハトの弱みになるからな。

 私に刺客を送った証拠となるだろう」


「まあ、それもそうですね。

 では、殺さず、お預かりしておきましょう」


 沈黙が流れた。


「……なんでだ。

 まあ、置いておけ」


「……なんでですか。

 殺されますよ?」


 忠誠心厚い騎士はアローナを刺客と決めつけ、ジンを説得しようとする。


「怪しい娼館の娘ですよ。

 どのような手練手管(てれんてくだ)で男をたらし込み、殺そうとするかわからないじゃないですか。


 っていうか、貴方、既に、たらし込まれてますよねえっ?」


「誰がだ、無礼なっ。

 私は、この程度の娘に、たらし込まれたりなどしておらんぞっ」


 今、おもいっきり(さげす)まれたような……、

とアローナが思っている間に、ジンは話をそらすように騎士に問う。


「ところで、アローナ姫はどのような状況で消えたのだ」


「それが詳しいことはわからないのです。

 姫がいた一行はまだ砂漠を横断している途中のようで。


 伝令用の鷹が、姫が消えたことを伝えに飛んできただけなのです」


 それを思えば、盗賊たちって速いよな。

 あっという間に、メディフィスについてたもんな。


 最初から盗賊たちに頼んで此処まで運んでもらっていたら……


 ……いたら、残忍な前王の時代に着いて、後宮の女のひとりにされてたな。


「まあ、また知らせが入るでしょう。

 こちらからも砂漠に向けて、一小隊送りましたから。


 姫捜索のために」


 申し訳ない、とアローナは騎士を拝む。


 騎士はそれには気づかず、

「心配ですね。

 姫になにかあれば、アッサンドラの王が怒って戦を仕掛けてくるかもしれませんし」

と呟いていた。


 いや~、娘の輿入れ中に、婿が王の座を追われたことにもまだ気づいていない父親なんで、そんなに反応速くないと思いますよ、とアローナはのんびりした父を思う。


 騎士は去る前、

「まあ、その娘には充分気をつけられた方がいいですよ。

 アハト様が送り込んできたのです。


 可愛い顔して、なにを企んでるか、わかったものではないですからね」

と冷ややかにこちらを見て言ってきた。


 いや……、


 とりあえず、あなた方に、私の名前を伝えたいなーと思ってますかね……。





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