何故、こんなところに……
エメリアに導かれ、アローナは黄金の間から出て行った。
ところで、何処が黄金だったのかな、と思い返すと、あの妙な犬の神様っぽいものしか思い当たる節はなかったのだが、どうなっているのだろうかな。
そう思ったとき、エメリアが足を止め、下を見た。
吹き抜けの下、玄関ホールに数人の護衛に囲まれた男がいた。
こちらを見上げる。
金髪に翡翠の瞳。
ジンと似たような格好をした男だ。
ということは、権威ある人物? と思ったとき、エメリアが言った。
「あれがあんたが嫁入りしそこねたメディフィスの前王、レオ様よ」
「えっ?」
エメリアの言葉に、アローナは手すりから身を乗り出し、下を見た。
美しい男だが、ジンとは似ていない。
「ジン様はお母様似なのでしょうかね?」
「さあ?
ジン様も前のお妃様も見たことないから知らないわ。
王族の女は此処には来ないからね。
あんたくらいのもんよ。
のこのこやってくるのは」
とエメリアは言う。
いや、のこのこ来たのは今回だけで、前回は連れ去られて来ただけですからね~、と思ったが、黙っていた。
あれが、ジン様のお父様。
道理で、私についてきた警備の人たちが驚いたように窺っているはずだな、とアローナは思う。
それにしても、うちのお父様と同じくらいの歳のはずなんだが、全然、そんな風には見えないよな、と思いながら、上から眺めていた。
眩いくらいに美しい男だ。
でもなんかキラキラしすぎて落ち着かないから、私はジン様でいいな、とアローナはジンに殴られそうなことを思う。
「下りて話してみなさいよ。
別に噛みつきゃしないわよ」
とエメリアは言ってくる。
「……あの、もしや、私に酒宴の相手をしろというのは」
「レオ様のに決まってるじゃないの。
店の女たち出して、なにかヘマでもしたら、無礼討ちにされるかもしれないからね。
あんただったら、息子の嫁じゃない。
殺したりはしないでしょ。
そんなことしたら、幽閉じゃすまなくなるし」
いや、何処も幽閉されてませんよね……と思いながら、上から見ていると、近くにいたアリアナに耳打ちされたレオは、張りのある声でアローナに呼びかけてきた。
「ほう。
お前がアローナか。
到着を今か今かと待っていたのに、ジンのものになってしまったようだな。
返却するようジンには言ったのだが」
私は本かなにかか……。
「なるほど。
ジンが返さないだけのことはある、美しい!」
とレオは言ってくれる。
なんでしょう。
そのような素直な称賛の言葉、ジン様の口から出たことがないのですが。
ちょっと嬉しくはありますね、と思いながら、アローナはレオを見下ろしていた。