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あら、ちょうどいいじゃない



 二本足で立つ謎の黄金色の犬の神とかいる。


 ふかふかの長椅子に腰掛けたアローナは背後に立っている神様のような格好をした犬の像が気になってしょうがなかった。


 ただの装飾品のようなのだが、杖を持っているので、背後から殴りかかってこられそうで、ちょっと怖い。


 つい、何度もそちらを振り返っていると、豪奢な器に入った料理や酒が運ばれてきた。


「遠慮しないで食べなさい。

 代金はアハト様に請求しておくから」

と前に座ったエメリアが言う。


「あ、あの」


「なにかしら」


「お粥食べたいんですけど……」


「……何処かの王宮から連れてこられた料理人が泣くから、それ、食べてあげて」

と言われてしまったが。


 あとで、ちゃんと粥も運んできてくれた。


「なんか落ち着く味です」

とこの間とは違い、立派な食器に入った粥を食べながら言ったが、エメリアは、なんでそっちがいいの、というように小首を傾げていた。


「家庭の味っぽいからかしらね。

 でも、あんたそれ、拉致されて薬飲まされたあと、此処で食べたんでしょう?


 嫌な記憶とか思い出さないの?」


 面白い子ね、とエメリアに言われる。


「で? まんまと脱出できたこの娼館に、なにしに来たの?」


「いやそれが、急に前王ではなく、ジン様に嫁ぐことになりまして」


 迷っているのです、とアローナは言った。


「怒涛の展開で、ちょっとついていけてなくて。

 自分がジン様を好きかどうかもよくわかりませんし」


「好きだろうが、好きじゃなかろうが、嫁ぐしかないんじゃない?

 結婚なんて、そんなものでしょ?


 私は此処に来たけど、姉たちは金持ちのところに嫁に行かされたわ。

 もちろん、正妻じゃないけどね」


 まあ、そんなもんだよな。

 特に王室なんかだと。


 好きで結婚するなんて、滅多にあることではないから。


 そもそも自分では拒否することすらできない結婚だったはずなのに。


 駄々をこねたら許してくれそうなジン様が花婿に変わったので、ちょっと迷ってみたりしているだけなのだろうか。


 私、ジン様に甘えているのかもしれないな……とアローナは思う。


「で、なんでその話でうちに来るのよ」

とエメリアがそこで訊いてきた。


「いえいえ。

 此処は男女関係のプロだと侍女たちが申しておりましたので」


「……違うことのプロよ。

 それに、そういう話なら、私に相談しても駄目よ」

とエメリアは言う。


「何故ですか?」


「私は売り物だから恋はしないの。

 というか、自分を高く売りたいから、恋はしないようにしているの。


 一人の男に縛られて、仕事を疎かにしたくはないの。

 だから、心は誰より箱入りよ」


 はあ、そういうものなんですかね……とアローナが思ったとき、下が騒がしくなった。


「なにかしら?」

と立ち上がったエメリアが一旦、扉の向こうに消える。


 扉の前には護衛がいるようだったが。


 話の邪魔をしないよう、中には誰もいなかった。


 アローナが後ろの黄金の像を見ながら、つややかな果物ののった焼き菓子とこの砂漠では珍しい冷たい果汁の飲み物を飲んでいると、エメリアが戻ってきた。


 扉の前で、にやりと笑って言う。


「ちょうどいいわ。

 今、人手が足らないの。


 よその王宮の酒宴に女たちを貸しているから。


 アローナ、すぐに売られて客の相手、しないままじゃない。


 ちょっと手を貸してちょうだいよ。

 あんたを保護した恩を少しは感じてくれているのなら」


 着飾って、酒の席に座ってるだけでいいから、とエメリアは言った。





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