人でなしの巣窟
「まあ、どうしたの?
出戻ったの?」
とりあえず、娼館の中に入れてもらうと、身体にぴったりと巻きつくような孔雀色のドレスを着た美しきエメリアが現れ、アローナにそう言った。
……まだ正式に嫁に行ってもいないのに。
みんなに返品かい? 出戻ったのかい? と言われて、大層縁起の悪い感じなのですが、と思いながら、アローナは言った。
「いえ、ちょっと気になることがありまして」
まあそう、と言ったあとでエメリアは、
「あら、しゃべれるようになったのね。
安い薬を使っていたのかしら。
まあ、買った相手によっては、すぐ死ぬだろうからいいかと思ったのかしらね」
と人でなしなことを言う。
まあ、エメリアのこのゾッとするような美貌には、こういう口調がピッタリなのだが。
「誰と話したいの? 私? それとも、アリアナ様?」
アリアナという可愛らしい名前の娘が何処に居るのかと思ったら、あの老婆だった。
アローナは少し迷って、
「では、エメリア様で」
と言った。
女主人、アリアナは、こちらを振り返って言う。
「そうだね。
私はアハト様と金の話をするから。
エメリア、その王妃様、黄金の間に通しな」
そう言われ、彼女の側でアハトが渋い顔をして呟いていた。
「……だから、此処に来るのは嫌だったのですよ。
ああでも、そうだ。
私はアローナ様についていなければ」
とアリアナから逃げるためにか、アハトは彼女にそう言ったが、アリアナは、
「なにを言ってるんだい。
砂漠辺りで此処ほど安全な場所はないよ」
と言う。
それはそうかもしれないな、とアローナは広い吹き抜けの玄関ホールを見回した。
真っ白な美しい建物のあちこちに、さりげなく目の据わった男たちが潜んでいる。
何処よりも警備がしっかりしていそうだ。
「考えてみれば、此処、なかなかいい場所ですよね」
とアローナが言うと、エメリアは先に立って歩きながら、
「そうね。
だから、いろいろ密談にも使われてるわよ。
私たちは幾ら金を積まれても、此処で見聞きしたことはしゃべないし」
と言ってくる。
「……拷問されたら?」
「しゃべるわよ」
そうあっさりエメリアは言った。
「この身体に傷がつくのは嫌だから。
拷問されそうな気配を感じたら、される前にしゃべるわよ」
そんなに安全な場所でもない気がしてきたぞ……と思うアローナは、アリアナの言う黄金の間に通された。