なにしに来たんですか……
「行ったか、アローナは」
王宮の廊下を歩きながらジンは言う。
「はい。
アハト様がついて行かれたので問題はないと思いますが」
と言うフェルナンをチラと振り返り、
「ずいぶんとアハトを信用するようになったもんだな」
と言うと、
「信用してますよ、最初から。
おのれの権力のためなら、なんでもする人ですから。
今、アローナ様に上手く取り入ろうとしているところなんで、アローナ様のことはちゃんと守ってくださると思いますよ」
とフェルナンは言う。
つい、渋い顔をしてしまうと、
「でもまあ、パッと見、アハト様の方がアローナ様にいいように使われてますけどね」
と言って、フェルナンは笑った。
「……シャナもいればよかったんだが。
あいつ、いなくていいときはいるくせに。
こういうときはいないからな」
「ご自分が前王のところにやったんじゃないですか」
と言うフェルナンに、
「そうなんだが。
雇いたくないときは雇え雇えとうるさいくせに、今だっ! ってときにはいないなと思って。
今なら、シャナが二人いたら、二人雇いたいところなんだが」
と言う。
「まあ、なんだかんだで大丈夫ですよ、アローナ様は。
だって、砂漠でさらわれて、娼館に売られたのに、ちゃんと目的地まで。
ジン様のところまでたどり着いた人ですから」
とフェルナンは笑ったが、ジンは、
いや、あいつの本来の目的地は、父のところなんだが……と思っていた。
「で、なんで戻ってきたんだい」
アローナたちが辿り着いた砂漠の中に突然ある夢のような建物からは、漆黒のドレスを着た小柄な老婆が出てきた。
アローナを見て渋い顔をし、
「気に入らなかったのかい。
返品するのなら、更に金を払いな」
と無茶を言う。
「そうではない」
とアハトはこの娼館の女主人である老婆に言った。
「実はこの方はメディフィスの新しい王妃となられるアローナ姫であったのだ」
「ほう、そうだったのかい。
まあ、物腰からして只者ではないと思っていたよ。
じゃあ、王妃様を保護していた礼をもらおうかね」
アハトがこちらを向いて、
「だから、此処に来るのは嫌だったのです」
一体、此処になにしに来たんですか、とアローナに文句を言ってきた。