嫁というのは、そうしたものです
娼館に、なにしに行くんだとジンに問われたアローナは言う。
「助けられたお礼がしたいのです」
「売り飛ばされた報復じゃないのか」
「いや、美味しかったので、粥」
とアローナが言うと、ジンは一瞬、考えたあとで、
「……わかった。
必ず誰か連れて行けよ」
と言ってくれた。
「大丈夫です。
アハト様がついてきてくださるそうです」
とアローナが背後に控えていたアハトを手で示すと、ジンが驚愕する。
「もうアハトを配下に置いているのかっ」
いや、配下になど置いていませんけどね、とアローナは思っていたのだが。
後ろからアハトが、
「まっこと恐ろしいお妃様でございます。
わたくし、すでに言いように使われております」
とジンに向かい、訴えていた。
アローナはアハトとともに馬車に乗り、出発した。
金色の派手な馬車だ。
護衛もついている。
「襲われませんか、これ」
とアローナは言ったが、
「王室の紋章が入っているので、逆に襲われないです。
メディフィスの報復は恐ろしいので」
とアハトは言う。
「でも、今、メディフィスを仕切っているのは、ジン様ですよ」
大丈夫ですか?
舐められてないですか?
とアローナが言うと、
「……たぶん、この世界でもっともジン様を舐めているのは貴女ですよね。
まあ、どんな勇猛な男も嫁には頭が上がらないものですが」
とアハトは、しみじみと言ってきた。
「ま、ジン様はやさしすぎるのが玉に瑕ですが、あれでなかなか強く賢い男ですよ」
とジンを売り込むように言ってくるので、
「アハト様は、ジン様と敵対しているのではないのですか?」
と小首を傾げてアローナが問うと、アハトは言う。
「人として、王として、認めているからこそ、厄介なのです」
そして、馬車からチラと外を見て、
「買いましょうか? 菓子」
とアハトは訊いてくる。
あのときと同じ屋台が、今日もカラフルで美味しそうな焼き菓子を売っていた。