全部顔に出る人だ……
フェルナンは、面倒な相手が二倍に増えたなーという顔をしているなあ、とアローナを見ながら思っていた。
ほんとうにすぐ顔に出る人だ、と思う。
「実はちょっと行きたいところがあるのです」
などと言い出すアローナに、
「じゃあ、私もついて行きますよ」
とフェルナンが言うと、アローナは、えー? という顔をする。
「仕事中にそんなところに行っていいんですか?」
「いや、そんなところって、何処なんですか……。
っていうか、それを言うなら、式はまだですが、一応、王の妃である貴女も今、勤務中では」
「えっ?
私、今、お仕事中なんですか?」
とアローナは目をしばたたく。
「なにせ、お妃様ですからね。
重要な客人が来たら、笑顔でもてなすのも仕事のうちでしょう?
夜は夜で、王をもてなしてくださらないと困りますし」
「……そんな昼も夜もおもてなししてたら、休むとこないじゃないですか」
そう可愛らしく文句を言ってくるアローナに、
「いや、今、まさに休んでますよね~。
っていうか、ほぼ休んでますよね~。
たまには働いてください」
と言ったが、アローナは、
「でも、昨夜もちゃんと王をもてなしましたよ」
と反論してくる。
まあ、姫様、大人になられて、という顔をフウはするが。
「いや、へったくそなカーヌーンを聴かせて、卒倒させかけただけでしょ?」
と思わず言ってしまっていた。
聴いてたんですか……という顔をアローナがする。
……へったくそなは言い過ぎだったな。
仮にもお妃様となられる方なのだから。
でも、はじまりがはじまりだっただけに、どうも口調がくだけてしまうな、
と反省しながら、フェルナンは咳払いをして言った。
「わかりました。
出かけてもよろしいですけど。
王の許可を取ることと、誰かお供のものを連れていくこと。
この二点は守ってください」
だか、アローナは即行、
「いえいえ。
王の許可はとれません」
と言ってくる。
「だから、何処に行くつもりなんですか。
とってくださいっ」
と押し問答がはじまった。
「あの、お供のものを探せって、フェルナン様はついて来てくださらないのですか?」
「私に様はいりません」
とフェルナンはアローナに言ったあとで、
「よく考えたら、今、城を離れられなかったんですよ」
と断る。
ああ、困ったな、とフェルナンは呟いた。
「こんなときこそ、シャナがいればいいのに。
王が使いに出してしまわれたから」
「そうなんですか?」
「あの男、いなくていいときにはいるくせに。
いて欲しいときにはいないんですよね」
そう言って、
「……刺客にいて欲しいときってどんなときなんですか」
と突っ込まれてしまったが。
いや、シャナはもう気配を悟られず動ける俊敏な便利屋のような扱いになっている。
「この間捕まえた刺客はまだ使えそうにないしなー」
と思わず、呟いて、
「いや、刺客は普通、人材として雇用するために捕まえるわけじゃないんじゃないですかね?」
とアローナに言われてしまった。