この人、なにか企んでますよ
アローナについて砂漠を渡り、メディフィスまでやってきたエンの後輩侍女フウは、アッサンドラとはまた趣の違う、大きな街、大きな宮殿に圧倒されながらも、日々、懸命に働いていた。
そんな或る日の朝。
フウが精一杯、緊張を見せないようにして宮殿の中を歩いていると、大きな円柱の陰から、ちょいちょいと手招きしているものがいる。
アローナだ。
姫様、相変わらず、お美しい。
そして、相変わらず、何処にでも、あっという間に馴染む人だ……。
ちょっと羨ましい……と思いながら、フウはアローナの許に行った。
「フウ、馬車を手配して欲しいんだけど」
と言ってくるアローナに、
「何処に行かれるのですか?」
と問うと、しっ、とアローナはフウの肩をつかんで、更に隅へと連れていく。
「ちょっと内緒で行きたいところがあるの」
「どちらにですか。
わたくしもついて参ります。
姫様になにかありましたら、エン様に顔が立ちませんから」
いや、王にとかじゃなくてか、という顔をアローナはした。
あまり面識のないジン様より、遠くにいるアッサンドラの王より。
今にも現れて、後ろからどついてきそうなエン様の方が怖い、とフウは思っていた。
「どちらに行かれるのです?」
とフウは少し強めに訊いてみた。
エンが姫に対して、いつもそうしているように。
このままひとりでアローナを行かせて、また行方不明にでもなられては、たまらないからだ。
「……何処か良いところですか?」
とアローナの表情を窺いながら、フウは訊いてみた。
エンが姫はすぐ顔に出る、と言っていたからだ。
すると、アローナは、うーんと小首を傾げ、
「男性にとっては良いところかもね。
でも、若い娘が行くところではないわ。
付いてきたら危ないわよ」
と言う。
「じゃあ、姫様も行かないでください。
と言いますか、このまま姫様を行かせて、姫様になにかあったら、私はきっと、エン様に死ぬより恐ろしい目に遭わされます。
それくらいなら今、行って、ひどい目に遭った方がマシです」
とつい、どんだけエンが怖いんだ、と思うようなことを言ってしまう。
だが、エンの恐ろしさを知るアローナには、こちらの恐怖がよく伝わったようだった。
アローナが、えー? 困ったなあ、という顔をしたとき、フェルナンが現れた。
宮殿の隅でこそこそしているこちらを見て、
「またなんの悪巧みですか? 姫よ」
とアローナに言ってくる。
面倒な相手が二倍に増えたなーという顔をアローナはしていた。