そう来ましたか
次の晩、寝室にやってきたジンはどっかりと寝台に座り、重ねられた大きな枕に背を預けて言ってきた。
「さて、アローナ。
今夜の演目はなんだ」
ちょっと諦めたような口調だった。
いやいや。
催し物をやってるわけじゃないんですけどね、毎晩、と思いながら、アローナはフェルナンに頼み、カーヌーンを用意してもらった。
指で弾いて鳴らすと、美しい音の出る弦楽器だ。
「ほう。
お前は、カーヌーンが弾けるのか」
「はい、弾いてみます」
「……弾いてみます?」
と訝しげに言ったジンは正しかった。
カーヌーンからはロバが踏み殺されたような音が出る。
何度も何度もロバが踏み殺される。
「もうよい……」
とジンが言ったので、アローナは仕方なく、シャナを呼んだ。
「王の寝所に殺し屋を招き入れるのはどうだ」
と言われたが。
いや、あなた、昨夜は褒美をとらせてましたよ、と思いながらも言わずに、シャナの演奏する美しいカーヌーンの音色に合わせ、アローナは歌を歌った。
ほう、とジンは感心する。
「いい声をしているな。
だが、歌の内容が、調味料の順番なのは何故だ……」
「子どもの頃、よく調理場に遊びに行っていたんです。
おやつくれるから」
と言って、
「……どんな王女だ」
と言われる。
いやいや、虫歯になるからとおやつ制限されてたからですよ、と思いながら、アローナは言った。
「それで、料理人たちが面白がって、新米に覚えさせる歌を私にも覚えさせたんですよ」
陽気なリズムで歌いやすいので、子どもの頃からよく歌っている。
今でも一番得意な歌だ。
「呑気な城だな。
だから、父上などにいいようにされたんだ」
「……はい」
とアローナはそのときだけ、神妙な顔をした。
まあ、ジンの父の軍が来たときに、父は、すぐにアローナを差し出すことと、高い税を納めることを約束したので、民たちに被害は出なかったのだが。
「ま、だからこそ、お前はそんな風なんだろうな」
と言ったジンは目を伏せ、
「もうよい」
とシャナを下がらせたあとで、自分も立ち上がる。
「今日は満足した」
となにを満足したのか知らないが、そう言って帰っていった。