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今夜はどうしましょう?



 次の日、今夜はなにをやったら? と思いながら、庭を散策していたアローナはシャナに出くわした。


「暇ですね、アローナ様。

 王でも暗殺してみませんか?」

と淡々と誘われる。


「いや、城で雇ってもらったんじゃなかったんですか?」


「今、厨房で芋をむいていたんですが。

 どうも向いてないようです」


 何故、殺し屋を厨房で雇ったんだ……。


 この城は適材適所とか考えないのだろうかと思ったが、

「刃物を使うのが得意そうだから」

という理由で調理の下ごしらえに回されたようだった。


「手際の良さを褒められてちょっと嬉しかったんですけどね。


 でも面白くないんですよー。

 芋もニンジンも私にられても、うっ、とも、あっ、とも言わないじゃないですか」


 いやいや、芋やニンジン切るたびに、うっ、とか、あっ、とか言われたら面倒ですよね~と思いながら聞いていたアローナは、


「……王様に言っときますよ。

 違う仕事に回してくれるよう」

とシャナに言う。


 ありがとうございます、とちょっと機嫌の良くなったシャナは礼を言ってきた。




 ところが、夜やってきたジンの方はすこぶる機嫌が悪かった。


 なんなんですか、今夜は、と寝台に腰掛け、アローナが思っていると、

「お前、あの殺し屋と手をつないで庭を歩いてたろう」

とジンは言ってくる。


「好きでつないで歩いてたわけじゃないんですけど」

と言い訳をするアローナの手に、青い石のはまった金の杯を持たせ、ジンは勝手に酒をそそぎはじめた。


「シャナが、なにが好きかって訊いてきたんですよ」


 ジンは語り出すアローナの横に腰掛け、自らもついだ酒を口にする。


「一日中、毒殺ですか? 射殺ですか?

 いやいや、やっぱり、矢に毒を塗って射殺いころすのもなかなかですよね、とか言うの、聞いてみてくださいよ。

 どっと疲れますから」


 なんだかんだでシャナは美しいので、侍女たちもあまりシャナをとがめない。


 一番口うるさそうな古参の侍女もうっとりとシャナを木の陰から見ていた。


「矢に毒を塗ったら、それも毒殺なんじゃないですかねーって言ったら、ですよねー、とシャナが気を良くして話し続けて、手を握ってきて。


 それで、そのままちょっと話しながら歩いてただけなんですけど」


 子どもの頃、エンと手をつないで遊んでいたときと、変わらない握り方だったので、特に振りほどかなかったのだ。


「そんなの理由にならないだろうが。

 俺には手も握らせないのに」


「ジン様、手をつなぎたいなんておっしゃらないじゃないですか」


 そうアローナが言うと、ジンは呑みかけていた酒をくいっと全部あおぎ、アローナを見つめて言ってきた。


「……つなぎたい」


 そ、そうなのですか。


「つないでもいいか」


「……は、はい。

 ……どうぞ」

とアローナは言う。


 そのまま横に座るジンの方は見ずに、真正面を見ていた。


 ……握ってきませんね。


 どうしたら、いいんでしょう、この右手。


 そう不安がりながら、思わず、握り締めてしまっていた、ジン側にある右手をゆるめてみる。


 ……やっぱり、握ってきませんね。


 こ、このまま、どうしたら、と二人で膠着こうちゃく状態になっていたそのとき、


 何処からともなく、矢が飛んできた。


 はっ、と気配を感じたジンがアローナをかばうように、抱いて避ける。


「矢に毒を塗って射殺いころす!?」

と昼間の話を思い出し、アローナは思わず叫んでいたが、ジンは寝台に刺さった矢の矢尻を確認し、


「なにも塗ってないようだが」

と呟いていた。


 アローナを片腕に抱いたまま、ジンは矢が飛んできた方角を見る。


 アローナが見上げたときには、なんの変哲もない天井だったが、ジンはそちらを見て、笑って言った。


「よし。

 明日からは厨房じゃなく、フェルナンのところに行け」


 えっ? シャナ?

と思ったが、そちらを見ることはできなかった。


 強くジンに抱きしめられたからだった。


「ゴソゴソするな」

と耳許でささやかれ、逃げようと身じろぎするのをぴたりとやめる。


「いや、そこまで硬くならずに。


 ……もうちょっとだけ、じっとしてろ」


 ……はい、と小さくアローナは頷いた。





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