笑って寝てる……
どうやら、自分が寝ていると思ったようだ。
アローナの様子にそう思いながら、ジンが目を閉じていると、アローナはそっと夜具をかけてくれた。
寝台の端に行き、眠ることにしたようだ。
……襲われるぞ、いいのか?
とジンは片目を開けてその様子を窺う。
アローナはちょっとゴソゴソしていたが、すぐに寝息を立て始めた。
早いな、と少呆れながら、ジンは起き上がる。
反対側を向いて眠っているアローナの顔を覗き込んでみた。
なんの夢を見ているのか、アローナは笑って寝ている。
父は暇なので、戦をすると言っていた。
いずれお前にもわかる。
王というのは暇なものなのだと。
衣食住の心配をすることのない地位にいると、戦でもしてみようかという気になるのだと。
父上。
あなたのような王にはなるまい。
ずっとそう思い、生きてきましたが。
私の中に流れるあなたの血が不安でした。
でも、今なら断言できます。
私は絶対にあなたのように、暇だからといって、戦をするような王にはならないでしょう。
そこで、ジンは気持ちよさそうに眠っているアローナの寝顔を見つめて笑う。
この次々騒ぎを起こしてくれる人質姫のお陰で、一生退屈などしなさそうだから。
そう思いながら。
しばらくして、ジンがそっとアローナの寝室を出ていくと、フェルナンが、あっ、出てきたっ、という顔をする。
「おやすみなさい、のあと、静かになって出ていらっしゃらないので、今宵こそはと思ったんですが」
とフェルナンは言い出す。
その今宵こそは、な事態が起きた方がいいのか、起きない方がいいのかわからない口調だった。
フェルナンはアローナが妃になることをどう思っているのだろうか?
最初は、遥々《はるばる》アッサンドラからやって来られるアローナ姫を正妃に、と思っていたようだが。
この困った貢ぎ物の娘がそのアローナ姫だとわかってからはどうなのか、と思いながら、ジンは言った。
「アローナは眠ってしまった。
襲うのは簡単だが。
まあ、もう少し様子を見よう」
フェルナンは遠慮なく、ちょっと鼻で笑うような顔をしたあとで、
「そんなこと言ってるうちに、誰かに、ひょいと持って行かれたりしないといいですね~」
と言って、行ってしまった。