なんだかんだで、はぐらかされるぞ
なんだかんだで、今日もはぐらかされたぞ、と思いながら、ジンはまた自室に引き上げていた。
だが、アローナとのこんなやりとりが一日の終わりにあるだけで気持ちよく眠れる気がする。
あまりに莫迦莫迦しくて、日々の嫌なことも忘れてしまうからだ。
そう思った翌日、侍女たちと仲良く宮殿の図書館に向かうアローナの姿を見た。
もしや、自分の気をそらすネタに尽きて、仕入れようとしてるのだろうか、と思い、笑ってしまった。
「ジン様。
今宵は物語でも読み聞かせましょうか。
私でも読める言語の本があったので」
「読んだ」
昼間図書館で、読み聞かせによさそうな本をせっかく探してきたのに、ジンはアローナが最後まで言わないうちに、本のタイトルだけ見て、そう言ってくる。
「読んだな、その本」
「では、こちらを」
とくすんだ金のような色の厚い本をアローナは出してきたが、ジンはまた、
「読んだ」
と言う。
「では、こ……」
「読んだ」
今度は出す前に言われた。
ジンはアローナがサイドテーブルに積んでいた本を見、
「うちの図書館から持ってきたんだろ。
読んでるに決まってる」
と言う。
「えっ。
あの蔵書をすべて読まれたのですか?」
「すべてではない。
三分の一は読んだ。
物語の類はみな読んだので、なにを持ってきても無駄だ」
ええーっ、とアローナは眉をひそめる。
「だがまあ、取りこぼしもあるかもしれないから、お前は私の読んだ本ばかり持ってきたということになるな。
我々の趣味嗜好が似ているということだろうか」
とジンが言うので、
「じゃあ、今度は裁縫か、料理の本でも持ってきます~」
と力なく言ったのだが、
「そういうのも読んだ」
とトドメを刺される。
もう~っ、と思うアローナの前で、ジンは楽しげに笑っている。
幾重にも重ねられた枕に背を預けたジンは目を閉じ、言う。
「死ぬまでには全部読みたいかなと思うんだが。
年々、本は増えていくからな。
人生、三回くらいやったら、全部読めるかもな」
「人生三回ですか」
とアローナは呟いた。
今生では長い人生を共にしようと言われたが、生まれ変わったら、きっと一緒じゃないんだろうな。
仕方なくもらった人質の花嫁だもんな。
そう思いながら、アローナはジンの顔を見る。
そのまま黙っているジンに、寝てしまったのだろうかな、とアローナは思った。
お疲れだもんな、とアローナはジンの身体に夜具をかけてやる。
……それはいいんだが、私は何処で寝ればいいんだろう?
アローナは周囲を見回した。
長椅子で寝るという手もあるが、装飾激しい椅子は寝心地はよくなさそうだ。
アローナは少し迷って、ジンと同じ寝台の端で寝ることにした。
幸い、転げ回って遊べそうなくらい寝台は広かったからだ。
「おやすみなさい」
とアローナは眠っているジンに言い、枕許のランプを消すと、自らも目を閉じた。