そして、また夜がやってきた
アローナは寝台の上で膝を抱えていた。
また夜が来てしまったようだ。
今夜はどうすれば、と思った瞬間、いきなり扉が開いて、ジンが入ってくる。
「今日はどうした。
なにか考えついたか、アサギマダラ」
それ、私の名前じゃありません、と思いながら、アローナは寝台の上から、すがるようにジンを見た。
「それがなにも思いつかないんですよ~。
考えてください、ジン様」
「……俺がか」
意味がわからんが、と言いながら、ジンは寝台に腰掛ける。
ジンの重みで少し寝台が軋んで下がっただけで、なんとなく強張ってしまう。
そんなアローナを見て、ジンが笑った。
「まあ、長い人生を共にするのだ。
初夜が数日遅れたからと言って、どうということもあるまい」
待って数日、という宣言にも聞こえるな、とアローナは思った。
でも、とジンを見上げる。
長い人生を共にする、か。
そう言い切られると、なんだかちょっと照れてしまうのだが……。
そうアローナが思ったとき、ジンが笑った。
「何故、笑うんです?」
と訊くと、ジンは、
「お前が笑ったからだ」
と言う。
笑いましたか? 今、私。
自覚はなかったのだが、ジンは微笑み、アローナを見つめてくる。
「なかなか式ができなくてすまんな。
もう少し国が落ち着かないとな。
追いやった父も相変わらずだし」
は、はあ、と言いながら、見つめないでくださいっ、そんな間近でっ、と逃げ腰になるアローナにジンは訊いてきた。
「ところで、何故お前は、そんなに往生際悪く抵抗しようとするのだ。
国に誰か好きな男でもいたのか」
「いいえ」
「ならば、私が好みの男ではないのか」
「いいえ」
ジンは沈黙した。
「……お前が私に抵抗する、その理由はなんだ?」
「なんなんでしょうね……?」
そういえばない。
よく考えれば、抵抗する理由など何処にもなかった。
美しい瞳と髪に、厚い胸板。
若さと知性溢れる美貌。
「想像していた未来と違いすぎて、ついていけてないだけなのかもしれません」
とアローナは素直に胸の内を吐露する。
「だって、とんでもないヒヒジジイに嫁ぐと聞いておりましたのに」
とうっかり言って、
「そのとんでもないヒヒジジイは、うちの父親なわけだが……」
と言われてしまった。
申し訳ございませんっ、とアローナは飛んで逃げる。