ジン様は何処ですか?
ジンが出て行ったあと、た……助かった、と思いながら、アローナは寝台の上にへたり込んだ。
だが、此処を出て行って、ジン様は何処で眠るんだろう、まあ、部屋はたくさんあるだろうけど、と思いながら、ちょっと気になり、出て行こうとしたら、扉を開けたところに、フェルナンが立っていた。
「あの、ジン様は何処ですか?」
と問うて、
「アローナ様に追い出された王は、ひとり寂しく何処かでお休みなんじゃないですかね」
と嫌味まじりに言われてしまう。
「王のなにが気に入らないのですか、アローナ様。
若く美しく、性格もまあまあ良い」
まあまあなんですか? と思うアローナにフェルナンは、
「どうぞ、遠慮なく王に抱かれてください」
と言ってくる。
「遠慮ではないです」
「……あんまりごちゃごちゃ言ってると、またよそに人質に出されるかもしれませんよ。
今度はもっとすごいヒヒジジイかもしれないですよ」
と脅され、ひっ、とアローナは息を呑む。
メディフィスとアッサンドラでは国の規模が違いすぎる。
花婿が変ろうとも、自分が人質花嫁であることには変わりない。
ひょいと何処かにやられる可能性もなきにしもあらずだ。
「まあ、今は王も楽しんでおられるようですから、いいですけどね。
王が本気で貴女を欲しいと思われたら、さっさと諦めてくださいよ」
と既にジンの姿のない廊下の向こうを見ながらフェルナンは言ってくる。
「ところで、フェルナン様は何故、そこにいらっしゃるのですか?」
警備なら、少し離れたところに衛士たちがいる。
わざわざフェルナンが此処に立っている理由がわからないのだが、と思い訊くと、
「フェルナンで結構です」
と言ったフェルナンは、
「私は貴女がちゃんと王のものとなったか、報告するために此処にいるんです」
と言い出した。
「いずれ生まれるであろう貴女の子が本当に王の子かどうかを見極めねばならないですからね。
ま、毒婦のくだりは黙ってて差し上げますよ」
いやいや。
どんだけ筒抜けなんですかっ、と思うアローナを更に脅すようにフェルナンは見る。
「いつまでもお手がつかないようなら、王は貴女に魅力をお感じにならないようだと言いふらして歩きますよ。
ささ、人妻がそんな色っぽくない人でも色っぽく見えてしまうような服装で、外に出てこないでください」
と言いながら、侍女たちに着せられた就寝用の薄い生地のドレスを着たアローナをフェルナンは部屋に押し込める。
「では、ごゆっくりおやすみください」
と言われ、扉を閉められた。