表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/81

王宮に着きました


 アローナたちの乗った馬車が、ぐるりと城下町を囲む堀の前にたどり着くと、ゆっくりと跳ね橋が下りてきた。


 橋を渡って街の中に入ったアローナは驚く。


 此処へ来るまでの荒涼とした風景とは違い、いきなり華やかな街が現れたからだ。


 整備された石畳の道。


 その沿道は花や食べ物を売る屋台であふれていた。


「メディフィスの都だ」

とアハトが教えてくれる。


 えっ? 此処がっ?

 噂に聞いてたのと全然違うっ、と馬車から外を眺めながらアローナは思った。


 恐ろしい王様が支配する、戦と陰謀にまみれた強国だと聞いていたのに。


 市民が圧政に苦しんでいる様子はなく、みな楽しげだ。


 視線を馬車の中に戻すと、同じように外を見ていたアハトと目が合った。


 なにか言わねばと思ったが、声は出ない。


 仕方なく、アローナは身振り手振りと顔つきで、

「素敵な街ですね」

と伝えてみた。


 アハトは深く頷き、

「わかった。

 買ってやろう」

と言って、馬車を止めさせ、屋台で菓子を買ってこさせた。


 いや、違うんだが……。


 だが、意外にいい人だ、とピンク色の甘いなにかでコーティングしてある渦巻状の菓子を手渡されて思う。


 ありがとうございます、と身振り手振りで伝えてみたが、今度も伝わったかはわからなかった。


 ひとりで食べるのもな~と思い、半分ちぎって、アハトに渡そうとしたが、

「いや、いい。

 食べなさい」

と言われる。


「新しい王は横暴な方ではないから、気に入れば、大事にしてもらえるかもしれないぞ。

 まあ、王様という奴はなにを考えているかわからないものだからな。


 いきなり殺されても恨むなよ」

と言うアハトに、


 ……いや、この菓子一個で、殺されても恨むなと言われても、とアローナは思う。


 だが、最後まで美味しくいただいた。


 それにしても、新しい王?


 前の王様はどうしたのだろう、と思っている間に、白く美しい宮殿に着いた。


 砂漠の国の宮殿とも似た感じだが。


 側に見張り台として使っているのか、異国風の堅牢な高い塔があり、受ける印象は全然違う。


 交通の要所となっている国だからだろうか。


 いろんな文化が混ざっている感じだな、とアローナは思った。





 アハトに手を取られて馬車を降り、宮殿に入っていくと、白いマントを羽織った金髪の騎士が現れた。


 アローナを見て眉をひそめる。


「アハト様、なんです?

 その娘は」


「街の外に出かけたら、面白い娘を見つけたので、王に献上しようかと」


 二人のやりとりを聞きながら、面白い娘ってどういう意味でだろうな、とアローナは思っていた。


 おそらく、この国の人間とは違う、変わった毛色の娘という意味だろうが。


 ふうん、と白い肌に金の髪をしたその騎士は上から下までアローナを観察したあとで、

「王はそういう貢ぎ物は受け取らないと思いますよ」

と素っ気なく言った。


「そうは言っても、王はお若いし。

 前王の後宮の女たちはすべてお役御免にしてしまわれて、お寂しいでしょう。


 父君の手のついてなかった幼い娘たちは残しておかれればよかったのに」


 ……前王が亡くなって、息子が王になったのだろうか。


 後宮の女たちはすべて何処かにやってしまったようだが。


 もしかして、前の王様に近しく仕えていたものたちにも暇をとらせたりしたのだろうか。


 すると、このアハトという男も、旧体制側の人間で、若い王のご機嫌を取ろうとしてるとか?


 そうアローナは推察する。


 騎士は溜息をつき、

「まあ、では、一応、王にお伺いを立ててみますよ。

 期待しないでくださいよ、アハト様。


 美しいだけで心が動くような王ではないですから」

とアローナをチラと見て言う。


「まあ、この娘で気に入らなかったら、また次を連れてきますよ」

とアハトは笑い、


「懲りないですねえ」

と騎士に言われていた。


 いやいやいや。

 気に入らなかった場合、私は……っ?


 王の慰み者になるのも嫌だけど、いきなり街中に放り出されても困るんですけどーと思っているうちに、王宮の一室に通された。


 白い石でできた床と壁。


 真っ白なシーツに天蓋つきの寝所。


 湯の流れ続ける湯浴みをする場所まである。


 南国の艶やかな花が白く滑らかな石の湯船の縁を彩り、その濃密な香りが部屋全体に漂っていた。


 むせ返るような香りで目眩がするな、と思いながら、しばらく、部屋のど真ん中にどうしていいかわからず立っていたが。


 誰も来ないので、湯に手をつけてみたり、ぼうっとしてみたりしたあとで、寝台に腰掛ける。


 ……何故、こんなことに、と思いながら。


 ともかく、早く此処の文字を覚えなければ、意思の疎通ができないと思ったアローナは、本を探し回る。


 だが、本は最初に腰を落ち着けた寝台のサイドテーブルの下にあった。


 無駄な時間を過ごしてしまった……と思いながら、本を広げる。


 ところどころ見たことのある綴りもあったが、大部分がわからない。


 もっと真面目に勉強しておけばよかった、と後悔しながら、寝台で本を見ていたが。


 つい、瞼が重くなる。


 オアシスでさらわれて、娼館に売られ。


 腰を落ち着ける間もなく――


 いや、娼館に落ち着けなくていいんだが。


 すぐに宮殿に連れてこられて。


 ああ、なんか疲れた……とアローナはそのまま瞼を閉じてしまった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ