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実は私の正体はっ!



 兄たちが帰ったあと、ジンは一旦、フェルナンたちと何処かに行ってしまった。


「用事を済ませたら、行くからな」

とアローナに耳許でささやいたあとで。


 いやいやっ。

 そんなに忙しいのなら、来られなくて結構ですっ。

 

 っていうか、まだ式、済んでませんしねっ。


 我々は他人ですよっ、他人っ、

と思いながら、アローナは後ずさるようにして逃げ、部屋に戻ったが。


 侍女たちが追いかけてくる。


「あっ、あのっ」

と怯えているうちに、すごい迫力の侍女たちに、身だしなみを整えられ、髪に王が好むという香りの強い薄紅色の花を飾られ、アローナは寝台に腰掛けさせられていた。


 なんでしょう……。

 先程までとは違い、逃げられなさそうなこの雰囲気。


「あの、エンは?」

とメディフィスの侍女たちに見習いのように混ざっていたアッサンドラの若い侍女に訊く。


 すると、彼女は苦笑いして言ってきた。


「あ、忘れ物があった、と言って、戻ってきたバルト様に連れ去られました」


 兄よ……。


 私の心の支えになってくれそうな人を、と思ったが。


 まあ、野暮は言うまい、とも思う。


 なんだかんだであの二人は仲良しだ。


 侍女たちが頭を下げて出て行った。


 やがて、訪れなくてもいいのに、ジンが部屋を訪れる。


「……元気か、アローナ」


 そうジンは訊いてきた。


 いや、さっき別れたばかりですけどね。


 もしや、


「さっき別れたばかりだが、お前が恋しくて、つい、そんな風に訊いてしまった」


 などと歯の浮くようなセリフを言うおつもりですかっ、と思って見つめてみたが、ジンはなにも言わない。


 ちょっと困ったような顔で、アローナを眺めている。


 まあ、さっきまで貢ぎ物の女だと思っていた娘が、あれよあれよと言う間に妃となったわけだから。


 落ち着いて考えてみたら、なんだかんだで複雑なのかな。


 私もですよ、ジン様、と心の中で思ったとき、ジンが側に腰掛けてきた。


 逃げかけるアローナの腕をつかんで言う。


「なんだかんだで、結局、私たちはこうなる運命だったのだ。

 諦めろ」


 もう逃げられない雰囲気に、焦ったアローナは慌てて言った。


「あっ、あのですねっ。

 実は私、毒婦なんです」


「……どくふ?」


「そうです。

 毒婦なんです。


 どーくーふー」

と言ったのに、何故か、ぷっと笑われる。


「ほら、あれですよっ。

 毒を身体に染み込ませた女を敵に送りつけるとかいう。


 毒があるフジバカマの蜜を吸うことで、自らも毒に染まり、敵に襲われないようにするアサギマダラみたいに。


 私は子供の頃から、毒に身体を浸して生きてきたんです。


 触ると死にますっ」


「……すでにいっぱい触っているが、いつ、効くんだ? その毒は」


 そうでしたね……とアローナは今まさにつかまれている、おのれの腕を見下ろした。


「それに、そういう女って、お前自ら、今言ったように。

 政敵に送るやつだよな。


 ということは、お前の父親は素直に人質を送るフリをして、我が国に反逆しようとしていたということか?」


「えっ?

 いっ、いやー、そういう訳ではないんですけどーっ」

とアローナは慌ててごまかすように言う。




「あっ、あのですねっ。

 実は私、毒婦なんです」


 どーくーふー、と可愛らしい顔でアローナが言うので、ジンはこらえきれずに吹き出していた。


 なにが毒婦だ。

 アッサンドラの王は掌中の珠のように可愛がって育てた姫を泣く泣くこの国に嫁がせたと聞いている。


 そんな娘を毒に浸して育てているわけがないではないか。


 アローナから常に放たれているのは毒などという禍々《まがまが》しいものではない。


 ミルク色の肌に艶やかな長い黒髪の彼女からは常にいい香りが漂っている。


 赤ん坊の近くにいると感じるような、ホッとする香りだ。


 まだ怯えたように自分を見上げているアローナの顔に笑ったジンは、


「まあいい。

 今日はそのアサギマダラの話が面白かったから、許してやろう」


 そう言って、今日のところは寝台からおりてやった。




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