宴のあとで
アローナとアローナの従者たち一行を歓迎する宴のあと、アローナはさっきまでいた部屋に戻っていた。
あの部屋を自室として使っていいと言われたからだ。
侍女のエンとともに部屋に入ると、大きな重い扉を閉めるなり、ふふふふ、といきなりエンが笑い出す。
「よかったですわね、姫様。
わたくし、旅の道中、無事につくよう願いながらも不安だったのです。
残虐で女好きなエロ大魔王が姫様の夫でいいのかと」
ジンの方便ではなく、ほんとうにエロ大魔王だったのか……。
父よ、何故、私を差し出しましたか、と思うアローナにエンが言う。
「あのような誠実そうな王子が王となられていて、よかったですわね。
ちょっと押しが弱そうですけど。
若き王は見目麗しく、姫様とともに並び立つと、まるで美しい絵のようですわ」
偉くジン様を買っているようだけど。
その割に攻撃的だったような……と思っていると、その疑わしげな視線を感じ取ったらしいエンは、
「王が本当に姫様を大事にしてくださるかどうか、見極めるためですわ。
そのためなら、わたくし、斬り殺されても構いません」
とキッパリ言ってくる。
「ありがとう、エン」
とアローナはちょっと感動し、忠実なる部下の手を両手で握った。
「でも、ジン様は殺さないと思うわ。
貴女が少々失礼なことを言ったところで」
「そうですわね。
分別のある立派な王だとこの城に入ったとき、伺いました。
だからこそ、言ったのです」
と言うエンに、
じゃあ、最初から斬り殺されるつもりなどなかったのでは、と思ったが、
「そのくらいの気構えで、わたくしは姫様のおつきの侍女をやっているということです」
とエンはまとめる。
「鷹を飛ばしても、アッサンドラから返事が来るまで、かなり時間がかかります。
その間に、あの王が自分に合った夫かどうか見、極められてはどうですか?
そうそう。
鷹が返事を持ち帰るまでは、姫様には指一本触れないと王は約束してくださいましたけど。
姫様が望めばその限りではないですよ」
とエンが言っている間に、ドアを叩く音がした。
「アローナ、まだ起きているのか?」
「あらあら、王がいらっしゃいましたよ。
こんな時間に忍んでいらっしゃるなんて」
でも、と言って、エンは、にやりと笑う。
「姫様が望むのなら、扉を開け、王を受け入れてもいいのですよ。
開けるも開けぬも、貴女次第です」
いやいやいやっ。
そんな言われ方をしたら、開けられないではないですかっ、
とアローナが思ったとき、ふたたび、ノックの音がした。
「アローナ、寝てしまったのか?」
「では、わたくしはこれにて」
ジンの言葉にかぶせるくらい素早くそう言ったエンは、何故か中庭の方から帰っていく。
庭にぼんやり立って、おそらく、今後の就職のことを考えていたシャナに出くわし、
「あら、こんばんは。
もう遅いですわよ。おやすみになられては?」
などと会話をしながら。
「アローナ?」
と扉の向こうから、ジンがまた呼びかけてくる。
アローナは迷って周囲を見回した。
誰か、なにか、この状況の助けになるものはないかと思ったからだ。