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帰らないでくださいーっ


 探してくれるのありがたいけど、此処に来てー、とアローナは去ってしまった従者を追うように窓の外を見た。


 だが、美しい庭には誰の姿もない。


 フェルナンと鷹は出て行き、ジンだけが部屋に残っている。


「どうした。

 此処から帰りたいのか。


 っていうか、何処から来たんだ、お前は。


 娼館に来る前は何処にいたんだ?」


 アッサンドラですっ、と身振り手振りで伝えると、

「そうか……」

と言って頷いたジンは扉を開けると、廊下に向かって叫んだ。


「おい、誰か新しいワインを持て」


 ……私のアクションになにか問題があるようだ、と思いながらも、もうそのまま、ワインを持ってきてもらうことにした。


 フェルナンは、どうせなにもしゃべれないのだからと行ってしまったようだが。


 気になるな。


 一体、誰がフェルナンを脅しているのだろう?


 忠実なる王の部下が板挟みになって苦しんでいるのなら、どうにかしてあげたいのだが。


 なんだかんだで、フェルナンもワイン持ってきてくれたしな。


 そう思ったとき、

「ほら」

とジンが召使いが持ってきてくれたワインをアローナに差し出した。


「ついでやろう」

と言って、また寝台にアローナを座らせる。


 サイドテーブルを見たジンは、

「もう一本増えてるじゃないか。

 誰に持ってこさせたんだ」

と言いながらも、美しいカッティングが施された瑠璃色のグラスに注いでくれた。


 仕方ないので、ちょっぴり口をつける。


「……美味いか?」

と訊いてくるジンの瞳はちょっとやさしそうに見えた。


 ……うん。


 アローナ姫として此処に迎えられたのでは、見られなかっただろう、この人の素の顔が見られるのはいいかもな。


 などと、うっかり思ってしまう。


 おのれのグラスを置いたジンはさっき鷹が飛んでいった窓の方を見て呟く。


「姫が見つかったらどうするのか迷うところだが、とりあえずは無事に見つけないとな」


 ジンは最初に送った一小隊に追加して、城の兵たちも姫の捜索に向かわせたようだった。


「それにしても、姫は何処に」


 此処です。


「なにかの事件に巻き込まれたのだろうか」


 巻き込まれてます。


「いや、意外と、父との婚姻が嫌で逃げ出したのかもしれぬな」


 逃げ出したいところだったんですけど。


 それだと国の人たちが困りますからね。


「……それか、あるいは、初めて国の外に出て、浮かれて迷子になったとか」


 いや、私、どんだけマヌケに想定されてるんですか、と思いはしたが。


 深窓の姫が初めて外に出て、浮かれて、うっかり、というのは、まあ、ないでもないかもしれない。


 実際、初めて行ったオアシスで浮かれていて、こんなことになったわけだし、と思ったとき、ジンが言った。


「もし、そうなら、程なく見つかるだろうしな」


 そうですね。

 程なく、此処で……。


 でも、この城で見つかるのもかなりマヌケな感じがしてきてますけどね、とアローナはワインをちびちびやりながら聞いていた。


「せっかく砂漠を越えてやってきたアローナ姫をそのまま帰らせるのも申し訳ないな。


 かと言って、王の座を追われた父の許に嫁がせるのも、アッサンドラとしては、なにか違うだろうしな。


 大事に育てた姫を泣く泣く送ってきたのだろうから」


 はい、それはもう、と父たちとの別れを思い出し、アローナがほろりと泣きそうになったとき、ジンが言った。


「私が姫を妃とするのが良いのだろうが……」


 ジンは窓の外を見ながら、いろいろと今後のことを模索しているようだった。


 か、勝手に私の結婚話が進んでいる……と青ざめてジンを見上げていると、ジンは、ふっと笑い、

「なんだ、その不安そうな顔は。

 心配するな。

 妃をもらったからと言って、お前を市中に放り出したりはせぬ。

 一度、受け取った貢ぎ物だからな」

と言ってきた。


 ジ、ジン様。

 嬉しいんですけど。


 それは浮気ですよーっ。


 私に対する浮気ですよーっ。


「何故だろうな。

 刺客かもしれないのに。


 お前を手放す気にならぬのは」


 そう囁きながら、ジンは頬にかかっていたアローナの髪をその長い指先で持ち上げ、耳にかけてくれる。


 そのまま軽く頬に口づけてきた。


 戸惑いながらジンを見ると、


「……本当にお前は、なにも知らない生娘のように見えるな。

 今宵は、このまま寝るがよい」


 そう言って、ジンは恥ずかしそうに立ち上がる。


 なんですか、その感じ。


 まるで私を大事にしてくださってるみたいに見えてしまうんですがっ。


 で、でもこれ、浮気ですよっ。


 私に対する浮気ですよっ。


 こんな貢ぎ物の私に入れあげて、私を形ばかりの妻にしようとかっ、

と照れたようなジンの顔に動揺し、アローナは混乱してしまう。


 じゃあ、とジンは出て行った。


 閉まった扉を見ていると、真横に立っていた人が言った。


「意外と王は純情ですね。

 王なのに」

と王族に対する偏見に満ち満ちたことを言ってくる。


 誰っ!?

とアローナは、いきなり現れたその人物を振り向いた。


 銀糸の髪の長身の女に見える美貌の男。


 シャナが立っていた。


 ひっ、ホンモノの暗殺者っ!


 アハト様に命じられて、役立たずの私を殺しに来たとかっ?

とアローナは身構える。





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