間違った拷問を行っていますが……
今、俺の目の前には信じられない光景が広がっている。
何が信じられないかって?失意のドン底に落ちてしまったかの如く、美月さんがふらふら部屋から出てきたからだ。
先程の流れだと柚月さんがこってり絞られる感じだと思っていたのだが、姉妹の力関係はどうやら柚月さんに分があるらしい。
「お待たせ致しました、先程はご迷惑をおかけしました。姉さんとしっかりとお話しましたので問題は解決と相成りました」
「そ、そっか……それは良かったな?」
俺は先程の恨みから、柚月さんに対して丁寧な言葉遣いをしない事に決めた。
「あら?何やら他人事の様な口振りですね」
「そりゃ正直俺何もしてないし、冤罪だからな。なのでこの件については無実を主張する!!」
「まぁ、何ということでしょう。全く反省する気はないと……。姉さん、こんな態度を取らせていて宜しいのですか?」
どうやら俺を罪人に仕立て上げたいらしい。そんな柚月さんの態度に辟易しているのだが、二人はそんな俺を無視するかの様に会話を続ける。
「いや……それはその……ちょっとまだ早すぎると言うか、心の準備が出来てないというか……」
「なら、代わりに私がしてあげても宜しいのですよ?」
姉妹で何の話をしているのだろうか?全く理解出来ない。
「そ、それはダメだ!!やる、やるから……だから柚月はそれ以上近づかないでくれ」
どうやら話がまとまったらしいが、一体これから何が行われるのだろうか?
「お、お前が妹に手を出していないのは判明したが、わ、私の下僕でありながら、その……ほ、他の女と下着でどどどどど、ど、同衾するとは……そんな羨まし……じゃなくて不潔な事をした罰を今から与える。そ、そこに、せ、正座しろ!!」
なんか吃りながら言ってるから迫力には欠けるが、これ従わないとダメなやつなんだろうな。
俺は黙って従い、その場に正座する。
「い、今から…江戸時代に行われていた、ご、拷問を行う。か、覚悟しろ……」
そう言って美月さんが俺の太腿の上に乗っかった。フェイストゥフェイス、いわゆる対◯座◯と言われる体勢なのだが、彼女は何故こんな恥ずかしい事をしているのだろうか?
「ど、どうだ!?あ、足が辛いだろう!!」
江戸時代…正座……人が乗る?こんな拷問あったかな?歴史に詳しい訳ではないから分からないだけなのだろうか……。これが石とかなら思い当た……あ!?まさかこれ石抱のつもりか!?
石抱というのは、罪人を三角形の木材を並べた台の上に正座させ石を載せられる拷問の事だ。
時代劇とかでたまに見るけど痛々しいまさにザ・拷問って感じのするやつだ。
だが、今の俺の状況はどうだろうか?
柔らかい絨毯の上に正座させられて、線の細い女性に跨られているだけ……。
足が痺れるまでの時間は早いかもしれないが、顔を真っ赤に染めた美月さんを近距離で観察できる俺に得しかないシチュエーション。
「姉さん、私がさっき説明した通りにきちんとやってください」
「いや、その……こ、これ以上は…『姉さん、早くやりなさい』は、はいっ!!」
柚月さんのドスの効いた声にびびった美月さんは目を瞑り俺の首に腕を回すと勢いよく抱きついてきた。いきなりの出来事に一瞬硬直するものの、役得と思いせっかくのラッキースケベを堪能する為に一点に神経を集中する。
だが、俺はすぐさま『ふぅ……』と小さく溜息を吐く事となってしまった。
理由は、俺の胸に当たる彼女の双丘が神経を集中してようやく柔らかさを感じられる程度でしかなかったからだ。
少し小さめかなと初めて会った時から気づいてはいた。
だが、それはもう何というかなだらかすぎて、丘という言葉を使う事が自体が丘に対する冒涜ではないかと思えてしまうのだった。
「ど、どうだ!?脚が痛いだろう!!反省する気になったか!?」
柚月さんの方を見れば、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
こいつ……絶対に美月さんに変な事を吹き込んだのだろう。
「美月さんちょっといいですか?色々根本から間違ってるから聞かせてもらいたいんだけど、この拷問?のやり方は誰に聞いたんですか?」
「そ、それは柚月がこれをやればきっと反省すると……」
「えっと、その教えてもらった拷問のやり方なんだけど……正しくは三角形の木を並べた台の上に人を座らせて、石を脚の上に載せるわけなんですよ。間違っても毛足の長いふかふかの絨毯の上に座らせて人が重し代わりになったりはしないんですよね……」
「えっ……」
俺から正しい拷問のやり方を聞いた美月さんが固まる。
「それでは、今私がやっている事は何だ?拷問ではないならこれは…」
「対◯座◯って言葉は知ってます?ご存知だと思いますがその……なんというか性的なやつなんです。おそらくそれの練習?なのかなと。ついでに胸も当たってましたけど、何か意味があるのですかね?ちょっとそこに関しては分からないです」
「そ、それは自然な感じを装って胸を当てろという指示で、男はこれに弱くきっと悶絶するからと……はっ!?」
どうやら自分が何をしていたかを気づいた様だ。みるみる顔が青ざめていく。
「なぁ、もしや私はかなり大胆な事をしてしまっているのではないだろうか……」
「まぁ、そうですね……」
それを聞いた美月さんは、俺から急いで飛び退きはしたものの、彼女の目から徐々にハイライトが消え、死んだ魚の目の様になってしまった。
それを見た俺は、このまま放置するのは得策ではないだろうと思い、慌ててフォローを入れる。
「だ、大丈夫ですよ。当たってるのが分からないぐらいの感触でしたから……」
俺のフォローの甲斐もあり、彼女の瞳に光が戻り始めた。
上手くいった事に安堵の溜息を吐いた俺だったが次の瞬間、それは間違いであった事に気づかされる。
「ほぅ……そうか。私の胸は洗濯板だと言いたいのか……」
ん?当たってても気にならないとフォローしたつもりになっていたのだが、どうやら彼女にとって触れられたくないデリケートな部分を刺激してしまったらしい。
「あ、ちがっ……がはっ」
俺の鳩尾を見事なまでに抉る渾身の右ストレートが放たれる。
今回は意識まで持っていかれる事はなかったが、それから彼女の機嫌が直るまでひたすら謝り続けた。
そもそも彼女はどうしてこんな事をしたのだろうか?と思い尋ねると、柚月さんから下僕がおいたをしたら主人として罰しなければならないとかなんとかで、出来る主人の効率の良い拷問の仕方として教えてもらったのがこれだったらしい。
普通に考えたら、揶揄われているのが分かりそうな気もするがそれに気づかないのが美月さんなんだろうな。
美月さんの人柄を少しだけ理解出来たものの、柚月さんは一体何をしたいのだろうかという疑問だけが残るのだった。
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