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朝チュン……は素敵なものとは限らない

 ちゅんちゅん……ちゅちゅちゅん……


 スズメの鳴き声がする中、俺はゆっくりと目を開く。

 見慣れぬ天井、見慣れぬ部屋、そして見慣れぬ美少女の寝顔……。

 はっ!?なんで妹さんが隣で寝ているんだ!?


 人生初めての朝チュンなのに、記憶がないだと……!?

 朝チュンの記憶を取り戻す為に、とりあえず昨日の出来事を順番に思い返してみる事にした。


確か昨日は…

①綺麗なお姉さんがいきなり現れる

②下僕になれと言われる

③タワマンに拉致されてる

④パパになったと知らされる

⑤ワンパン入れられて意識を失う

⑥夜中に目を覚ましたらベットに寝ていた

⑦トイレに行った

⑧リビングで妹さんと遭遇

⑨よく眠れるお茶を振る舞われる

⑩朝チュン


 ⑨と⑩の間が全く思い出せねえええええ。

 昨日最初に寝ていた部屋と雰囲気が違う、どうやらここは妹さんの部屋なのだろう。

 とりあえず起き上がり状況確認。上半身が裸、そっと布団を剥ぐって確認してみると、パンツは履いていた。

 その時にチラッと横目で飛び込んできたのは、隣で穏やかに寝ている美少女のとてもアダルトな下着だった。

 具体的に言えば黒です、ありがとうございます。


 昨日の感じではかなり清楚な感じの子だったのに、人は見かけによらないとの言葉通りの光景。

 本当この言葉考えた人を尊敬するよな……としみじみ思っていると、隣で眠る美少女は身動ぎをしてゆっくりと目を開いた。

 俺と目が合い暫し見つめ合った後、微笑みかけてきた。


「おはようございます、昨晩はとても激しくございましたね。私まだ慣れてませんので、あまり激しくされると気をやってしまいます」


「え?まさか、俺と君は昨日……」


 途中まで言いかけたところで、唇にそっと人差し指を当てられる。


「言葉にされてしまうと恥ずかしいです……」


 そう言って恥ずかしそうに俯く美少女。その仕草と見た目が相まって、俺はハンマーで殴られた様な衝撃を受ける。

 その姿に見惚れてしまった俺だったが、雑音が耳に飛び込んできた事で現実に引き戻された。


「どこだ!?ここにも居ない…ど、どこに行ってしまったのだぁー!?」


何やら切迫した様子の声が聞こえる。続いて背筋に冷たいものが流れる。ここに居てはいけないと本能が警笛を鳴らしている。


「柚月、大変だ!!か、かー君が居なく………。おい、貴様そこで何をしている……」


突然開け放たれる扉。切迫した声は途中から地獄から呼び出された鬼を想起させる声へと変わる。俺の身体の一部がキュッとなる。


「多分何もしてないであります!!違います、これは冤罪です!!」


 危険を感じ即座に否定するのだが、お姉さんの目はすでに血走っておりせっかくの綺麗な顔が台無しになっている。


「ほぅ、これだけの現況証拠を残しながら言い訳をするのか。私も舐められたものだ、貴様命が惜しくないのだな」


そして瞬く間に距離を詰められ、昨日と同じ衝撃が俺を襲った。

いいパンチ持ってるじゃないか……このまま意識を失われるかと思ったが更なる不幸が襲ってきた。意識を失う寸前で今度は顔に先程に勝るとも劣らぬ衝撃を受けたのだ。

 そのおかげで意識を飛ばす事も叶わず、床を転げ回る。


「っ……うぉぇ……ぅおえ……」


 涙と鼻水を垂れ流して悶絶する俺を気にする事なく、お姉さんは質問をしてくる。


「それで貴様……柚月と最後までやったのか?」


「き、き、記憶が…ごほっ…なくて……わ、分かりません…うぉぇ……」


 その問いには辛うじて答えることが出来た。本能が返事をしろと告げていたからだ。

 きっと今の俺はおそらく生死の境目に身を置いているのだろう。


「そうか、まだとぼけるのか。口で聞いても駄目なら身体に聞くしかないよな……」


 貴方もう身体にも聞いてますからね!?とは思ってても言える雰囲気ではない。


「お待ち下さいませ、姉さん。既に私は汚れてしまいました。今更何をしてもその事実は覆りません……」


 涙ながらに訴えかける妹さんの言葉を聞き、お姉さんの顔から感情が完全に抜け落ちた。


「そうか……もう私にできる事は一つしかないのか。貴様を殺して私も死ぬっ!!」


待って!?なんでそうなるのさ!?考えろ俺。今を生き延びる為にどうしたらいいか考えるんだ。

 俺は生まれてから今までで一番の頭の回転を発揮する。


「美月さん、俺の話を聞いてください」


 すぐにでも包丁を取りに行きそう勢いだったお姉さんがその動きをピタッと止める。

 おや?これはいったいどう言う事だろうか?


「美月さん?」


 とりあえず名前を読んでみたが、その肩がビクッと大きく揺れたのが確認できた。


「美月さん!?」


 まただ、また大きく揺れた。

 もしかして名前を呼ばれて動きが止まったのか?おそらく間違いないだろう。

 ここは攻めるしかない場面だと思った俺は攻勢に打って出る。


「柚月さん、いいかな?」


「何かしら?」


「柚月さんって昨日初めてだったの?」


「なっ…!?そんなの当たり前でしょ?私の初めてを奪っておいて何てことを言うの!?し、信じられない……」


 そう言う彼女の瞳は揺れていた。うーん、これ絶対に怪しいだな。

 僕はおもむろに布団をはぐる。そこには綺麗なシーツがあった。赤い染みといった物的証拠となるものは見当たらない。


「本当に初めてだったんだよね?」


「な、何よ!?私が嘘をついてるとでも言いたいわけ!?」


「だって、さすがにシーツを変えたりはしないよね?どう考えても怪しさしかないんだけど?」


「うっ……」


 僕が更に疑いの目を向けると、彼女は即座に目を逸らした。

 あ、これ完全に黒だな。何故そんな嘘を彼女がついたのか問いただしたかったが、お姉さんの疑いを先に解かないとまずいだろう。


「美月さん、僕は絶対にやってない。どうか俺を信じて欲しい」


 俺は目を逸らす事なく……真っ直ぐに美月さんを見つめた。

 お互い暫し見つめ合う。先に目を逸らしたのは彼女の方だった。


「わ、分かった……。今回は貴様を信じる。私は柚月と話があるから席を外してもらえないだろうか?」


 反論はないので頷くと俺は部屋を後にした。リビングのソファーに腰を下ろした所でふと気づいた。

 さっき俺の事を『かー君』て呼んでたような?遠い昔に誰かからそんな風に呼ばれていた気がしなくもないけど、まだ顔とお腹が痛いので考える事を早々に放棄するのであった……。

読んでくださってありがとうございます。

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