第03話 家康との盟約
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──江戸城本丸、謁見の大広間。
ここに今、俺と家康は二人きりで対峙していた。お互い、従者は廊下に控えさせている。
「呼び立ててすまんの、真人」
特に悪びれた様子もなく、家康はそう口にした。
「いいさ、別に。どうせ『魔王』の件だろ?」
魔王。リカーナとかいう国に突如現れた、世界の驚異。俺はその名を、嫌と言う程ウォルフから聞かされていた。
「うむ……その通りじゃ。『死神の町』からの情報で、遂に黒船がこの大和を、次の標的に据えたと聞いてのぉ」
『死神の町』が持つ諜報機関は、大和でも群を抜いて優れている。楓が中心になり、隠密行動に長けた亜人達を集め、育てて組織された部隊。『死神の町』が誇る、忍者部隊『影紅葉』だ。今回のこの情報も、楓達が齎した成果の一つに過ぎない。家康は『死神の町』に大使として駐在する、沖田からこの情報を受けて、慌てて俺に面談を申し込んで来た、と言う訳だ。
「楓の報告では、まだ暫く先の話らしいぞ?」
リカーナと言うのは確か、前世で言う所のアメリカ大陸にあるらしい。この世界の航海技術だと、楓の話では一年くらいはかかるそうだ。
「そう悠長な事は言っておれぬ。一年等、あっと言う間じゃ。それに、魔王軍には『黒船』なる物があると聞くでの」
「ああ、聞いてる。だが、それでも半年はかかるそうだ。それだけあれば、十分逃げるなり何なり、対策は取れるだろう?」
俺は正直、大和がどうなろうが知った事では無い。少し復興に時間がかかりすぎたが、京や半兵衛にさえ復讐出来れば充分だ。俺はそれさえ出来るなら、他の事には興味が無い。
「お主、逃げるつもりなのか? 町を捨てて魔王軍から……」
「まさか! んな事する訳ねえだろ。もし、『死神の町』にちょっかい出しがったら、それこそ皆殺しだ。例え、相手が魔王軍でもな」
人間社会には興味が無いが、『死神の町』に手を出して来るなら話は別だ。せっかく創り上げた快適な町を、また壊されてたまるか。
ただ、楓の報告によると『魔王』とは、『カズヒコ』と言う名前の大和人らしい。おそらくだが、カズヒコは俺と同じ転生者だ。ならば俺と同じ様に、反則級な異能を持っている可能性が高い。そんな相手、出来る事なら敵には回らない方が得策だ。大和でも何でも、勝手に支配すればいい。俺に関わりの無い所でな。
「ふふふ……お主らしいの。人間の町が魔王の手でどうなろうと、知った事では無いと申すか。全く、お主という奴は……いや、心強いとも言えるかも知れんの。しかし残念ながら、妾は逃げる訳には行かぬのじゃ……」
そう言って、家康は真剣な眼差しを向けて来る。そして、更に説明を付け加えた。
「この江戸の都には、大勢の民が暮らしておる。小さな村も含めれば、それこそ無数の民がの。妾はこの領地を治める者として、そんな者達を見捨てる訳にはいかぬのじゃ」
決意を込めた目で、家康はそう言い切った。
「あんな腐った連中でもか?」
雪を差別し、自分達の保身しか考えなかった愚かな連中。率先して差別を薦める、教会の腐った奴等。一部を除き、俺はこの町の人間をそういう連中だと捉えていた。しかし、家康はハッキリとした口調で答える。
「そんな連中でも、じゃ」
訴えかける様な目で、俺を見る家康。言いたい事は分かっている。同盟……『江戸の都』と『死神の町』が結んでいる、その盟約の事を言いたいんだろう。
俺達が締結しているのは、対等な関係での同盟と、不可侵条約。お互いに其々の領地へは、敵対的な干渉を行わない。そう言う条約を結んでいる。
だが、問題は同盟の方だ。これがある以上、例え『死神の町』には関係が無くても、江戸の都にとって驚異なのであれば、援軍を出す必要が出て来る。おそらく家康は魔王軍と戦になった場合、俺に戦力を借りる約束を取付けておきたいのだろう。
「厄介な同盟を結んじまったな……」
半は諦めの表情で、俺は愚痴を零した。まさか、魔王の軍が襲って来るなんて、考えてもいなかった。まあ、約束した以上は仕方がない。江戸にはある程度の被害が出るかも知れないが、樹海さえ無事なら別にいい。
そんな軽い考えで、俺は適当にやり過ごすつもりでいた。だが、そんな俺の思惑を、一変させる様な言葉を家康は口にする。
「本当に厄介なのはその後じゃ。仮に黒船を退けたとしても、その後は必ず魔王の本隊が攻め入って来る。そうなればとても、妾とお主だけでは太刀打ち出来まい」
魔王の本隊?
その言葉を聞いて俺は、自分の考えが甘かった事にようやく気が付いた。よく考えてみれば、確かにそうだ。攻めて来た魔族を退けるくらいなら、おそらく俺なら何の問題も無い。だが、それは『魔王』を呼び寄せる事に繋がってしまう。俺は、その可能性について失念していた。
俺と同じ、反則級の異能を持つであろう転生者、『魔王』。そんな強敵が相手だとすれば、流石に俺でも楽観視は出来ない。そして、魔王は何故か、この大和に拘っていると言う話だ。ならば、例え『黒船』を退ける事が出来たとしても、大人しく諦める可能性は、殆ど無いと考えた方がいいだろう。
魔王が大和に、どんな条件を提示するつもりか知らないが、同盟を結んでいる以上、俺の独断で勝手に受け入れる事は出来ない。かと言って敵対しても、いずれ『魔王』を呼び込んでしまう。
「確かに厄介だ……」
思わず俺の口から零れた。
腹を括るしか無いのか……? 『魔王』とやらと一戦交える覚悟を。そんな事を考えていた時だった。家康が先程の言葉に補足する。
「おそらく、お主なら『魔王』とも対等に戦えるやも知れん。じゃが、それはあくまでお主だけじゃ。向うには『死神の町』と同じ様に、文字通り人間離れした強さの軍勢が控えておる。幾らお主とて、その様な連中の大軍を相手に、一人で町を守り切る事など出来まいて……」
確かにそうだ。俺一人が生き残るだけなら、何とかなる様な気はする。後は精々、ジンくらいか。幾ら、進化したコンや楓が常識離れした強さだとしても、余りにも多勢に無勢。その上、相手に同じレベルの能力を持った連中が、いないと言う保証はどこにも無い。そんな奴等がいる軍勢を相手に、犠牲者を出さないで町を守り切るなんて不可能だ。
──圧倒的に戦力が足りない。
その答えに辿り着いた時、俺はふと、何やら言いたげな家康の表情に気が付いた。俺がジッと見返すと、家康は意を決した様にその口を開く。
「──真人よ。お主、この大和を統一したいとは思わぬか?」
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