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第01話 死神の町

※遂に【後編】スタート致しました!

もしまだ【前編】をご覧になられてない読者様がいましたら、是非そちらから読んでみて下さい!(作者マイページからご覧になれます)

 ──江戸の都で起きた、猪熊の謀反。あれから、一年程の時が過ぎた。



『早いものですね……』


 少し感慨深そうに、雪は静かに呟いた。


(そうだな……よくここまで来たもんだ)


 俺は雪の言葉に応え、小高い丘の上から、自分の暮らす町を見下ろしていた。


 ──『死神の町(グリム・シティ)


 いつの間にか、そう不穏な名前で呼ばれる様になった、俺の町。規模的には村と呼んだ方がいい様な、小さな町だ。だが、それでもここまで創り上げるのは大変だった。実際に動き、働いたのは、この街に暮らす亜人達なのだが。例によって俺は、偉そうに指示と要望を伝えるだけの簡単なお仕事だ。だが、それでもこうして見てみると、何やら感慨深い物が込み上げて来る。


『天鬼さん達のお陰ですね』


 雪が呟いた。そう。この街を作り上げる時に、天鬼の指示で鬼人族と小鬼族が、手を貸してくれたのだ。流石に、あの立派な鬼人の里を創り上げただけの事はあり、その技術は素晴らしい。お陰でこの町は、人間が暮らす町と比べても、何の遜色も無い程に整備されている。更にそこへ、俺の前世での知識を注ぎ込んだ物だから、この町は他に類を見ない程、快適な環境に仕上がっていた。


(ああ……天鬼にはいずれ、何か礼はしなくちゃな)


 俺はそう応え、ゆっくりと町に向かって歩き出した。


 町の周囲を取り囲む様に、生い茂る木々。その正体は、ジンが召喚した魔界の樹木、『嘆きの樹(グリム・プラント)』だ。こいつ等は自我こそ無い物の、(ジン)の命令だけは忠実に守る、生きた樹木。普段はジンの命令で、絶えず、この町に近づく者を監視している。


 「嘆きの樹(こいつ等)」は決して、自分から襲い掛かったりはしない。だが、登録されて(覚えさせて)いない不審者を見つけると、その枝葉をザワザワと揺らす。そして、不気味な唸り声を上げて警告を発するのだ。この不気味な声が、町を訪れた商人達の間で噂になり、俺の二つ名も手伝って『死神の町(グリム・シティ)』と呼ばれ出した……という訳だ。


 そんな思いに(ふけ)っていると、町の入り口が見えて来た。そこだけ『嘆きの樹(グリム・プラント)』は植えられておらず、大きな間口が開かれている。そして、その両端には見張りの亜人が立っていた。猪人族の門番だ。


「おかえりなさい、真人様!」


「ご苦労様です!」


 出迎えの言葉を口にしたのは、ボアルの息子達だ。名前は知らん、覚えてない。なにしろ、ここに暮らす虎人族は、全てベンガルの血縁者だ。ハッキリ言って、見分けがつかない。俺は、一度目の出産でベンガルに五つ子が産まれた時、その名前を覚える事を諦めた。


 軽く、右手を上げて応える。すると、更に俺を見つけた子供達が、大声を上げながら集まって来た。


「あっ! 真人様だぁ!!」


「おかえりー! 真人様ー!」


「真人様、遊んでーー!!」


 俺は、頭を抱える。正直、子供は苦手だ。決して嫌いな訳ではないが、こいつ等には得意の屁理屈も通じない。感情だけで動くものだから、どう接していいのかが分からないのだ。


『ふふふ……人気者ですね、真人さん』


(うるせぇ……)


 からかう様に雪が言った。俺は、適当に憎まれ口を返す。ここ最近、多くなって来たやり取りの一つだ。


「お前等、もう日が暮れるからさっさと帰れ!」


 いつもの様に雑に答え、適当に子供達をあしらう。素直に大声で返事をして、其々の家に帰り始める子供達……俺は、その様子を見送りながら何気無く呟いた。


「ほんと、バラバラだな……よく纏まったもんだ」


 バラバラというのは、種族の事だ。狐人族、虎人族、狼人族、猪人族……おまけに何故か、鬼人族の子供までいる。その中には鬼人族のキビトの子もいた。この町を興して以来、天鬼達のいる鬼人の里とは、友好的な関係を築いている。そこで天鬼は、この町に鬼人族との連絡所を設けた。その責任者として派遣されたのが、キビトの一家達だという訳だ。鬼人族は他にも、数世帯がこの町に住んでいる。


 要するに、天鬼も家康と考える事は同じだったという事だ。俺の町とは友好な関係を築きたい……裏を返せば、()()()()()()()()()()。そんな、天鬼の思惑が透けて見えた。


『真人さんという、種族を超えた長がいるから、実現出来た光景ですね』


 少し嬉しそうな声で雪は言った。


 そのまま暫く歩き、自分の屋敷が見えて来る。俺は屋敷(それ)を見て、大きく溜息を付いた。そして、誰に聞かせる訳でも無く、愚痴を零す。


「はぁ……全く。デカすぎるだろ、この屋敷(これ)……」


 無駄にデカい、二階建ての建物。まるで、貴族が住む様な洋館だ。ジン達に任せたら、こうなる事は分かっていたのに……。呆れ気味にまた、俺は溜息を一つ付く。


「おかえりなさいませ、真人様!」


 左手で槍を立て掛けたまま、仰々しく頭を下げる門番の猪人族。当然、名前は覚えてない。


「ああ、ただいま……」


 軽く右手で応え、玄関へ向かう。そして、重厚な木製の両扉を押し開いた。ギギギ……と重い音が鳴り響く。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 メイド服を着た、銀髪の美女……何故か、この家のメイドとして定着した、ラルだ。他にもこの屋敷には、何人かの使用人が住み込んでいる。無駄に部屋が余っているので、全員、一階を使っている。そして、二階には幹部の連中が、一緒にこの屋敷で暮らしていた。ジンとウォルフ、そして何と、コンや楓までがこの屋敷(ここ)に住んでいる。


 流石に女性はまずいと俺は主張したが、コンと楓は俺の警備という名目を盾に、頑として譲ろうとはしなかった。ボッチ人生、三十年弱。そんな、筋金入りの独り者としては、出来れば集団での(こういう)生活は遠慮したい。だが、無駄に広すぎるこの屋敷のせいで、どうにも断りにくい雰囲気だった俺は、そのまま流される様に受け入れてしまった。因みに、所帯を持つボアルやベンガル達は、其々、別に家を建てている。


「皆さん既にお集まりです」


 ラルがそう言って、俺を一階の会議室へと案内する。そう。今日はこれから幹部全員が集まって、会議が行われる予定になっていた。しかも今回は、何やら重要な報告もあるらしい。


「なんとなく想像は付くんだけどな……」


 重要な報告……その内容に心当たりがある俺は、小さく零しながら会議室へ赴いた。ラルが扉を開き、中の様子が視界に入る。確かにもう、全員揃っている様だ。木製の円卓の一番奥、一つだけ空いている席へと俺は向かい、そのまま腰を下ろす。向かって右側にジンとコン、そして楓。左側にはウォルフとボアル、そしてベンガル。更に正面には、天鬼とオウガが座っていた。


 俺が落ち着いたのを見計らい、スッとウォルフが立ち上がる。大体いつも、議長を務めるのはウォルフの役割だ。部屋中の空気が静まり返り、軽い緊張に包まれる。その様子を確認し、ウォルフは静かに口を開いた。


「それではこれより、『死神の町』定例の会議を始めます……」


 一瞬で緊張が高まり、部屋中の空気が張り詰める。そんな中、ウォルフはそのまま話し始めた。


「今回の議題は重要な案件の為、鬼人の里からも天鬼様とオウガ殿に、特別に参加して頂いております」


 そう言ってウォルフは天鬼達の方へと視線を向け、無言で紹介する。そう。普段ここで行われているのは、あくまで『死神の町』の会議だ。鬼人の里に住む天鬼達は、会議には参加していない。今回はウォルフの呼びかけに応え、特別に参加しているらしい。無言の紹介を終え、ウォルフは本題に入る。


「前回の会議でも議題に上げました、不穏な動きを見せる京。そして、昨年から急に勢力を増し始めた、陸奥。それに、江戸の都との協力体制や交易の状況について。他にも議論すべき事は多々ありますが、何よりもまず、最初にご報告しなければならない重要な情報(こと)があります──」


 皆、薄々感付いているその情報(内容)。ウォルフの口からその言葉が発せられるのを、この場にいる全ての者が、ジッと黙って見守っていた。そして、ウォルフはその想いに応える様に、その情報(言葉)を口にする。




「──黒船(魔王軍)が来ます。『魔王』が動き始めました」



読んで頂いてありがとうございました。

【後編】はまた、ブクマも評価も一からスタート致します。もしこれからも応援していいよ!って思って頂けたら、是非、評価・ブックマーク等を頂けると嬉しいです。


頑張って更新しますので、【後編】も引き続き、応援よろしくお願い致します。


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