1話 ロタムの村
ロータードラゴンが住まうと言われている「フィスタル」の西の端にある小さな村「ロタム」。
ドラゴン対策として、ドラゴンの苦手な匂いを放つドラシゥの木で作った柵で囲まれているこの村は農作物が豊かで、いもや穀物、さらには果物まで作っている。そのためかこの村にいるドラゴンは農作業向きの四足歩行や二足歩行のフィルドラと呼ばれる人間と同じくらいの体長をしたドラゴンが多く見られる。
そしてこの村はその昔、ドラゴンマスターが訪れ、ドラゴンの使役方法を伝えたという言い伝えがあり、先程村から離れた草原で翼龍を使役し損ねたウィズの持っていた腕輪がドラゴンを思いのままに操ることが出来る道具なのだ。この村では農作物の他にこの、ドラゴンを使役できる腕輪通称“ドラマス”を生産している村でもある。
そんなロタムの村の村長であるディアラル・アランは息子の帰りを今か今かと落ち着かない様子で待っていた。ウィズが自分のドラゴンをみつけて使役する言ってからはや十日。毎日草原や山の麓に行ってはドラゴンを見つけて使役しようと頑張っている。
そんな息子にディアラルは野生のドラゴンは警戒心も強く、気性が荒いのも多いからまずは自分たちのドラゴンの子供をあげよう。と言ったがウィズは聞く耳を持たず、自身が十二歳の誕生日で貰った腕輪を持ち、家を飛び出したのだ。
まぁ毎日帰ってくるだけは幾分マシだが、それでも野生のドラゴンに襲われて逃げ帰ってきたことも何度かあり、気が気ではない。
人間が一人で山越えや王都に赴くのには少し難がある。だからこそディアラルは村の掟として、ドラゴンを使役していない者は村から3kmから出てはいけないと定めた。
この村はフィスタルを東西に分けるように聳え立つ「ローターマウンテン」の3km圏内にある。だからウィズはドラゴンが沢山生息しているローターマウンテンの麓にも行けるのだ。
木で作られたコップに注いだお茶を少し啜り今回で諦めてくれないものか…などと考えるディアラルの耳に、カンカンと柵の門が開いた音が響いた。
ディアラルはバッと勢いよく立ち上がり、靴を履き門へと駆け出して行った。
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村の門の前でぼぅっと立つウィズ。
両親のドラゴンを貰うのではなく自分で使役したいという一心で毎日村の外に出ているが、結局何の成果も得られず毎日家に帰る日々。
もうそろそろ意地を張るのはやめようかななどという考えが頭をよぎる。
色々なことを考えていると、門を見張っていた短髪の男性がウィズに気づき門を開けるために備え付けられている滑車に手をかけ門を開ける。そして天井から縄で吊り下げられている木の板を鳴らした。
重たい音が響き、門がゆっくりと開いていく。ある程度まで開き終えると門番の男が近づいてきた。筋骨隆々で数多の傷跡が刻まれているその体は鎧でつつまれており、手には柄に漆喰が塗られた槍を持っている。
ウィズは門番の姿を確認して開いた門へゆっくり入っていく。
「ウィズ様、おかえりなさいませ」
門番の男は軽く一礼して言ったが、そんなのどうでもいいといった様子ですたすたと男の横を通る。
そんな時、村の奥の方からドタドタと騒がしい足音が聞こえ、ディアラルが走ってやってきた。
ディアラルは走ってきた勢いのままウィズの肩を掴んだ。
「ウィズ!大丈夫か!?まったく毎日毎日危ないと言っているのに…」
本当にお前と言うやつは…と少し息切れをしつつ話すディアラルにごめんなさいと小さくつぶやくウィズ。
そんなディアラルの後ろから銀色の長い髪髪を靡かせ、白のドレスに身を包んだ女性が体長50cmくらいの赤い目と羽を持ったドラゴンと一緒に姿を見せた。
「まったく、あなた何しているの?」
少しため息混じりにいうその女性はディアラルの妻でウィズの母親のイザベル・アランだ。
イザベルはゆっくりとウィズからディアラルを引き剥がし、ウィズの前へ立った。
「今日も無理だったのね…。まったくどうして諦めないのよ。わたくしたちのドラゴンの子どもを授けると言っているにも関わらず…」
ここは人の目もあるわ、とりあえず家に向かいましょうとイザベルは続け、ディアラルの腕を引き村の端にある自身らの家に向かった。その後ろをとぼとぼとウィズが着いて行った。