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第2章~暗転~

 6月26日、火曜日。午前のロンドンは晴れ間が出ていた。


 マリー「今日はどこへ行くの?」


 朝食を終えた少女は早くもこの日の観光ルートに興味津々だった。


 父「今日はグリニッジだ。そこでは世界中の時間が決められている場所なんだよ」


 こう自慢げに語った父だが、少女はいまいちピンと来ない。目的地にあった旧グリニッジ天文台は確かに現在でも世界の標準時を決める場所の目安である。だがイギリスとフランスはわずか1時間の時差しかない。EU圏内に至っては時差が無いのが当たり前の認識だった彼女にとっては「時差」というのが何なのか、見当もつかなかった。


 母「ねぇ、マリーが困ってるわ。あまり難しい話しないの」


 一呼吸置いて、


 母「昨日、一昨日と遊び疲れたでしょう。今日はゆっくり行きましょう」


 とマリーに言い直した。


 マリー「う~ん・・・分かった」


 心の底では納得できないものがあったが、両親を安心させるために笑顔を作ってみせた。実際、この日もロンドン観光は楽しかった。そう、ある惨劇に直面するまでは。




 史跡として残されていた旧天文台を出て地下鉄の駅に移動している最中のことだった。昼前だったのだが、晴れていたグリニッジの街は突然の豪雨に見舞われた。天気予報では降水確率が20%だったと聞いていたので、両親は「大したことない」とすっかり甘く見ていた。マリーを含めて家族の誰一人傘を持っていなかった。雷も鳴り始めていた。


 突然の豪雨に見舞われた家族は急いでグリニッジ公園の中へ逃げ込んだ。そこには雨をしのげる大木があったのだが、これが運命の分かれ道だった。間もなく大木に隠れようとしたその瞬間、大きな雷の光が家族を襲った。




 ズドオオオオオン!!!




 まるで飛行機が地上に激突するような衝撃音が周囲に響き渡った。3人家族は一瞬にして動けなくなった。すぐに近くを通りがかった人によって救助され、救急車で病院に搬送された。






 「・・・うう・・・」




 少女は事故から丸一日を経てようやく目を覚ました。


 看護師「気付いたわ。よかったね・・・」


 自分が横たわっているベッドの左隣には看護師さんが付きっきりで見守っていた。両親の身分証明書から、フランス語を話せる女性の看護師がマリーの担当となっていた。


 足や手は辛うじて動かすことができる。だが何だか感覚がおかしい。どういう状態になっているのか。マリーは自分の両手を見て目を疑った。両腕は欠損こそしていないが、原形をとどめないほど変形し、かなり丸っこくなっていた。看護師にお願いして鏡で確認したが、顔も同様だった。サッカーボールのように膨張し、目もかなり大きくなっていた。言うなれば、そう。数年前まで憧れていたヒロイン、パワーパフガールズとそっくりな外見であった。




 マリー「ねぇ・・・あたしの身体、どうなっちゃったの?パパは!?ママは!?」




 現状を飲み込めない彼女は看護師に立て続けに質問した。看護師はどう答えるべきか分からなかった。


 看護師「パパとママは、今、必死になって頑張ってるところよ」


 実はこれは彼女を安心させるための噓だった。両親は落雷の影響で多臓器不全となり、即死に近い状態だった。今のタイミングで真実を話したら彼女はもっとショックを受けるだろう。だが真実を語らなければならないのは時間の問題だ。




 マリーの家族には複雑な事情もあった。マリーが生まれる前、52歳で死んだ母方の祖父は極度のヘビースモーカーで、その上に病院が嫌いだった。ある時に救急搬送され、肺気腫と診断された時にはもう手遅れだった。夫を亡くしてから認知症が進んでいた祖母はいとこ家族が面倒を見ることになった。


 一方で父方の祖父母とは疎遠だった。結婚には大反対していたのだ。結婚式と披露宴に出席した後は一切関わらないことが妥協の産物として決められた。現に、マリーは父方の祖父母の顔を写真やホームビデオでしか見たことがない。






 28日、木曜日。マリーは両親が死んでいたことを看護師、医師から告げられた。




 マリー「うそ・・・うそだよぉぉぉっ!!!」




 危惧されていた通り、彼女は泣き崩れた。廊下や隣の病室に聞こえるほどの泣き声が響き渡る。


 マリー「あんなに祈ったのに!!」


 止めようがないほど泣きじゃくる彼女を、どう止めるべきか周囲の看護師や医師は右往左往するばかりだった。遂に彼女は病室から廊下へ飛び出した。




 マリー「誰でもいいから!私のこと、助けて!」




 廊下を走りながら自分に幸せをもたらしてくれる人を探していった。すると、階段を上がってきた日本人の男とぶつかった。




 「痛っ!」


 マリー「そこのおじさん!私のこと、助けて!」


 K「お・・・おじさん!?」




 男の正体は、Kだった。

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