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第12章~謎の鼓動~

 7月10日、火曜日。

 Kは朝からサンガンピュールを連れて土浦市役所に向かった。原宿の職場には事前に相談済みで、一日丸ごと予定を開けてもらった。市役所は桜川を渡った下高津地区にあった。生田町にあるKの自宅からはかなり離れていたため、タクシーを予約して移動した。


 市役所の入口を通り過ぎた2人は、そのまま市民相談の窓口に向かった。窓口では事前に相談を受けていた職員が待っていた。フランス人であり、日本人としての戸籍がないサンガンピュールの取り扱いは、法律に強い市役所職員でも悩むものとなった。これは住民登録について扱う市民課、子ども達の教育について扱う教育委員会生涯学習課、小学校編入について扱う教育委員会学務課など、複数の部署にまたがるものとなった。

 どうしたら良いものか。保護者はほぼ毎日東京に出かける「茨城都民」。一方で娘に見える少女は、日本語が不自由。勉強する手段が全く分からない。日中時間帯のみ一時的に市役所に預けるという方法が考えられたが、サンガンピュールにしてみれば、「またKおじさんがいない時の保護者が変わる」という心境であり、教育係の大人がコロコロ変わるのはよろしくないという判断から見送られることとなった。職員は「ここは託児所じゃないんだけどなぁ・・・」と思った。面倒なことを任されたと思った。


 結局、何の成果も得られなかった。帰り道。

 K「あぁぁぁ・・・どうしたらいいんだろう・・・」

 思わず頭を抱え込んだ。

 サンガンピュール「そうだ、あたしがおじさんの会社の近くにいてあげていいよ」

 彼女は覚えたての日本語で自分の意思を伝えた。

 K「そうか、その手があったか!」

 と答えたものの、

 K「いや・・・毎朝6時半に家を出るのはきついか」

 ある一面を是正しようとすれば、別の一面がダメになってしまう。

 サンガンピュール「6時半に家を出る?きついよ・・・。おじさん、いつも何時に起きてるの?」

 K「5時45分」

 サンガンピュール「C'est tôt!(早っ!)」


 完全に詰んだと思った。都内に引っ越すべきか。それとも退職を覚悟してでも土浦でずっと生活すべきか。いずれにせよ、日本での生活に慣れないうちに彼女を一人にさせてしまうのはかなり危険だ。



 Kは考え事をしながら国道125号線を土浦駅方面へと歩いて行った。その時だった。赤色灯を点灯させたパトカーが桜川にかかる橋を渡り、土浦駅方面へ緊急走行している姿を見かけた。これに気付いたサンガンピュールはずっと歩くのをやめた。


 K「どうしたの?」


 サンガンピュール「・・・誰かの悲鳴が聞こえる。強盗なのかな・・・」


 彼女は自分の心に響く声に耳を傾けた。すると、


 サンガンピュール「ごめん、どうしても放っておけない!先に行くね!」


 パトカーの後を追って急に走り出した。


 K「ちょっと、待って!!」


 どうしたら良いものか、急に分からなくなった。彼女は携帯電話といった連絡手段を一切持っていない。姿を見失ったら一巻の終わりだ。2人とも全速力で走って桜川にかかる橋を渡りきった。

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