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第11章~異文化との衝突~

 2001年7月8日の夜。

 サンガンピュールとKはM一家と離れ、自宅に帰るところだった。Mの実家で彼女を預けてもらえたのはこの日の朝までだった。今夜からは、またKが主体となって彼女の面倒を見なければならない。いずれにしても兄夫婦には迷惑を掛けてしまったと、Kは罪悪感を覚えた。

 K「はぁ・・・」

 思わずため息が出た、その瞬間だった。場所は千束町の交差点の付近だった。


 サンガンピュール「おじさん、見て!」


 珍しく声を掛けられたと思った。彼女は右手を夜空に向けて指している。よく見ると、夜空には少し雲がかかっていたが、天の川やさそり座が見えた。

 K「おおお・・・星がきれいだ」

 思わず感激してしまう。

 サンガンピュール「ねぇ、あの赤い星は何?」

 K「あれかい?あれは、アンタレス」

 サンガンピュール「アンタレス・・・」

 もう星の名前まで覚えてしまったのか、とKは驚いた。同時に、自分の力不足を感じてしまった。

 この数日間、実に詩織に頼りっぱなしだった。


 実は彼女はMの家にお世話になっている間、詩織から様々な言葉を教えられていた。詩織は幼稚園児向けの絵本や、小学校低学年向けの文庫本を使い、少しずつ彼女に日本語に慣れさせていた。その甲斐もあってか、「犬」「猫」「馬」といった動物の名前や、「花」「森」「星」「日の出」「日の入り」といった自然に関する単語がすぐに出てくるようになっていった。

 「そういえば詩織さんから聞いたなぁ」とKはサンガンピュールに関する出来事を思い出した。彼女はM宅に預けられていた数日間でひらがなとカタカナをマスター。小学1年生レベルの簡単な漢字の読み書きもできるようになったとのこと。世界でも非常に難しいとされる言語、日本語の文字の習得には多くの時間がかかるだろうという彼の予想は覆された。これも雷から受けた特殊な力の影響なのだろうかと勘ぐってしまったが、いずれにせよKは進歩の速さに大変驚いた。


 Kはしみじみと感じながら星空をずっと眺めていた。すると、


 サンガンピュール「おじさん、あたし・・・学校に行きたい!」

 K「そうなんだ」

 サンガンピュール「どんな言葉があるのか、他にたくさん知ってみたい!この町についてもよく知りたいし・・・何より・・・ずっと家にいるのは、つまんないよ。おじさんだからついていったのに・・・おばさんのお世話になったりだとか・・・。あたしは、Kおじさんじゃなきゃ嫌なの!」


 Kは予想された事態が起きたと思った。嬉しさはもちろんあった。「自分じゃなきゃ嫌だ」という言葉を聞いて、この子を引き取って良かったと思った。しかし、現時点では不安の方が大きかった。

 彼女は特異な出自だ。フランスで生まれ、イギリスで保護され、その場の思い付きで日本に移住した。こんなケースはマンガやアニメの世界でもなかなか無い。いや、アニメの世界の方がもっと特殊か。異世界から地球にやってきて、いつの間にか主人公と同じ学校に編入する・・・というのはよく聞く話である。戸籍はどうなるのだろうか?とか要らない心配ばかり気になってしまうKであった。

 閑話休題。現実世界の日本ではそう上手くいくだろうか。

 異文化との衝突と言えば、フランスでもそうだろう。1998年のサッカー・ワールドカップでもそうだった。ジネディーヌ・ジダンは両親がアルジェリア出身で、1994年にフランス代表メンバーに選出された当初はかなりバカにされた。「ラ・マルセイエーズを歌えないなんて、フランス代表たる資格はない」ととある政治家から中傷を受けたこともあった。当時のジャケ代表監督のもとには「ジダンら移民出身の奴らを代表メンバーから外せ」という脅迫まで届いた。

 「みんな同じ」「出る杭は打たれる」という同質性を極端に重んじる日本だったら尚更だろう。そんな日本の学校の環境に彼女はついていけるのだろうか。

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