第6話(1) あんたプリーストでしょ!
外が騒がしくなっている。
「どうしたんだろう……」
ルリさんが不安そうな顔を向ける。僕はなんとなく予想がついていました。恐らく最高位【プリースト】の僕に対し治療等の魔法の懇願だと……
窓を開けて外の様子を見ると……
「……あっ! あいつが何でも病を治す最高位【プリースト】だ! おいっ! 俺のかーちゃんの熱をタダで治してくれよ! 減るもんじゃないんだからさ!」
「いいえ! 私が先よ! お願いいたします! 死んでしまった可愛い我が子を!」
「うるさいうるさい! ワシを若返らせてくれ!」
死んだ恋人を! 家族の飢えを! 傷を治して! 頭がいたい! 陣痛がいたい! 切断しちまった腕を治して! 折られた歯を! 目を見えるように! 死んだおじいちゃんを! 折れた脚を! 病気なんだ! 髪を生やして! 痩せたい! 咳がとまらない! ペットが病気なんだ! 背を伸ばしてくれ! 胸がくるしい! 目が見えない!
顔を出した途端に多くの声が上がった。一番恐れていたことが行った。よく知りもしない人たちもが殺到することだ。回復魔法の効果は頭の中には入っているがここにいる全ての人間の願いに答えるのは蓄えられた魔力量でも不可能である。恐らく街中の人間がこの宿に集まっているのであろう。
階段をドタドタ駆け上がる音が聞こえてくる。まずいーーーーー
「【プロテクション】」
鍵をかけた扉が輝くと同時にーーー
ガチャっ! ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!
どんっ! どんっどんっどんっどんっどんっ!
「おいっ、開けろ! おらっ!」
「早くでてこいっ!」
【プロテクション】で扉の硬度を底上げして正解だった。少しでも遅かったら中に突入されていたかもしれない。
「めっ……めぐる。どうなっているんだ? これは!?」
「僕にが【プリースト】の最高位ジョブの【オラクル】というのがギルドから知れ渡ったんだ……」
「めぐるはこうなることがわかってて街を出る準備をしていたのね?」
「はい……確証はなかったけど……」
この異世界の医療技術を全く知らないけど街の雰囲気等でなんとなく予想がついていました。ゲームや小説やアニメなどでも薬草など出るくらいなので病気等での死亡率は高いだろう。
また、疫病を呪いの類い……いや、異世界だから呪いは実際に存在するのかもしれないですが、生け贄とかもやっているのであろう……街に買い物にでた際、ポーションなるものを見つけたが最低1本潤銀貨8枚……食べ物や雑貨の市場が劣銅貨2~5枚でやりとりされていることを考えると相当高価なものです。
「タダで治してくれる。何でも解決でき生命すら自由自在だと思われている……」
「めぐる……どうるんだ? 囲まれているぞ……」
「少し話をしてみようと思います」
そうルリさんに答えると窓を開け近づく。宿の前は人で溢れている……大きくはない街だが100人くらいの人間が宿を囲んでいるのが見える。
僕が見えると人々は先ほどの言葉をもっと大きな声で叫び出す。
「話を聞いてください!」
僕が大きな声をあげると少し静かになる……
「僕は確かに【プリースト】の【超越位階】です! しかし、力は万能じゃないのです! 全ての死んだ人を生き返らせることはできないし、欠損した体を治したりもできません! ……僕にできる範囲のことであれば皆様の力になりたいと思っています! だからこそ、皆様には落ち着いて欲しいです! しっかりと話を聞きたいと思ってます! 協力してください! お願いします!」
全力で頭を下げる……辺りが静まり返る。ふと、1人の女性が前に出てくる。
そして……
「何を言ってるのよ!」
女性が叫ぶ……
「最上位だかなんだかしらない! どうでもいい! 私には関係ないわ! いいから3年前に死んじゃった私の彼を生き返らせてよ!」
涙を流しながら女性が叫ぶ……
「……ごめんなさい。僕に……あなたの大切な人を生き返らせる魔法はないです!」
僕は噛み締めながら話す……確かに死者を生き返らせることのできる魔法【レイズデット】が【オラクル】の使える究極魔法の1つだ。しかし、条件は
肉体が存在する。
死後数時間。
という万能な代物ではない。しかし、そこまで説明はできない。
「嘘つき! 嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!」
「あんた……」
「プリーストでしょっ!」
つづく