第4話(3) 主になっちゃいました
「やっ……約束ですよね!? もうちょっとまってふごおっ!」
ゴシャっ……
顔に拳が叩きこまれる。
「ノ~ーートンっ! おれの言ってる意味わかる?」
「……でっ……でしゅから! 金貨まっへくらはい! ……へあぶっ!」
2発目が顔面に叩き込まれ耐えきれずそのまま倒れ転がり回る。鼻血はだくだくで歯も何本か折れているようだ
「受付さん、あの人は誰です?」
「この街1番のチーム【スマッシュ】。もう少しでDからCランクに上がるチーム。そのリーダーのボルグです。ジョブランクも街1番のランク5【アイアンモンク】。態度がデカく嫌われものですよ」
……僕とは違うタイプの嫌われものですね。
「いっだあぁい! なんで! なんで! ……ぐへぇっ!」
どすんっ……
ボルグが倒れてるノートンの腹に座った。そして、ノートンを淡々と殴り始めた。
「おれは! ……金はもち! ……ろんだが! ……お前ら! ……を仲間にしてやるっ! ……っていったんだよ!」
ごすっ……ごすっ……ごすっ……ごすっ…………
鈍い音が続き、ノートンがびくっびくっと痙攣し始めた頃。
「やめろぉっ!」
ルリさんが叫んだ。ボルグは殴るのをやめ、にやぁっとした顔でルリさんを見た。
「俺はよう……こんなグズ別に欲しくなくてよぉ……ルリ! お前見たいな気の強そうな女を引き込んでひんむいて俺のもんにしたいのよぉ……」
垂れてきたヨダレを吹きながら、のっしりと立ち上がりルリさんに近づいていく。
「めぐるさま? ジョブ登録の準備できましたよ?」
「……ごめんなさい。ちょっとまっててもらってもいいですか?」
……ぱちんっ
ルリさんがボルグをひっぱたいた。
「ふざけるな! 誰がおまえなんかと!」
ボルグは叩かれた頬を撫でながら……
「……いいっ! ……俺の見込んだ女だぜ!? 」
ぼぐっ! ルリさんのお腹に拳が刺さる。
「……うげっ! 」
お腹を抑え悶絶する。
「たまんねぇ! それだよ! その声が聞きてぇんだよ!」
「……ひっ!」
誰もが恐怖し固まる中……
「【ヒーリング】」
ボルグの後ろにギルド中の人間が目を向ける。そこには見るも無惨なぼこぼこの顔をしたノートンが殴られる前の綺麗な顔に戻っていた。
全員が状況を理解しようとしている中、僕はルリさんに近づいて魔法を唱えた。
「【ヒーリング】」
「めぐる……」
不安そうな顔をしたルリさんの頬に手を当て微笑みながら
「大丈夫です。なんとかなります」
周回遅れでボルグが反応した。
「なんだ? おまえ? 回復魔法が使えるのか?」
「そうです。僕は【プリースト】を目指している見習いです。まだジョブ登録は途中でこれからしますが。」
「はぁ! ……はっはっそれじゃまだ一般人じゃねーか! ジョブでの強化されてないのに俺に挑もうってか?」
ざわざわしていた。
ーー未登録で回復魔法使えるとか凄いのではーー
ーーなんなんだ、あいつは? ーー
などざわついているなか
「いい加減にしなさいよ! あんたそれでもこの街1番の男なの!?」
ジルさんが割って入って来たが
「うるせえぞ……お前も剥いてやろうか?」
殺気に圧倒されて黙ってしまう。
「ジルさん……ルリさんをお願いいたします。ボルグさん手合わせお願いいたします!」
僕は拳を構えてボクシングのステップをする。ボルグは笑っている。
「なんだよ! ダンスかよ!? はっはっ……ふん!」
ボルグの拳を避け、逆に拳を叩きこむ。ちょうどクロスカウンターのように綺麗に叩き込めた。
「っつ! てめっ!」
ボルグが拳を振り上げて殴ろうとしたところ、素早く先にジャブで2~3発顔に入れた。野盗との戦いでと今のボルグとの戦いでわかったことがあります。この世界では恐らく格闘技がない、もしくはひろまっていない。【モンク】という格闘ジョブについているボルグが素人の喧嘩のように殴ってくるのがその証拠だ。
ボルグのように拳をずっとグーで固めて力を込めていると殴って来るとき何処に拳が飛んでくるかがわかる。
ボクシングや格闘技の試合で選手が顔、肩、肘、拳、脚などを小刻みに動かすのはいつ打撃、掴みがくるのか、何処を狙うのか、タイミングはいつかを悟られなくする、初動を隠す動作である。
加えてボルグの拳は①振り上げ②殴る
の2行程だが
めぐるの拳は現在の位置から①殴る
の1行程だから先手が取れる。そして、めぐるが使っているボクシングのジャブは相手の顔までの距離を最短距離で真っ直ぐ叩くパンチの中で最速候補の技の1つだ。しかし、ボルグとは体格でも差があり、
「いいパンチだな! ……だが軽い。しかしだからと言ってもらいすぎても俺が危ないからな【アイアンスキン】!」
ボルグの体が銀色に光った。
これはなんかまずい。野盗の時から今まで魔法を唱え過ぎた。恐らく使えて2回ほどそれはなんとなく頭と体が理解できる。そして、2回目を唱えたら意識を失うことも……
ボクシングのステップをやめ、左中段に構えて深く腰を落とした。
「ほう……【アイアンスキン】を警戒するとはやるじゃねーか。クソガキっ!」
ぶわっ!凄い勢いで腕が飛んでくる。
内受け! 前に出ている左手を手刀のような形で押し当て、相手の拳を流し、流れてくるボルグの胴体目掛け……中段回し蹴り!
入ったっ!
「!? ぐうっ……」
喘いだのはめぐるのほうだった。
硬いっ! なんなのこれ! 鉄の柱を思いっきり蹴り飛ばしたみたい!
「ふん!」
かろうじて攻撃を避け離れる。
「はっはっは! お前田舎ものか何かだろ!? 【アイアンスキン】を知らないなんて! 今のこれの体は鋼鉄なんだよ! 素手では無駄無駄!」
鋼鉄!? 今ので脚がヤバい……長期戦は無理だっ……ならっ!
距離を一気に詰める!
「諦めて殴られろよ! おらっ!」
武術がひろまっていないなら、空手の骨掛けで睾丸を隠す術もしらない! 男ならここは鍛えられないでしょ!
拳をかわし懐に潜り込み股関を……蹴り上げ!
「……っつ! ここも硬いとか反則ですよ!」
ズドっ! ボルグの拳が腹にめり込む! 続けて2発目で殴り飛ばされる!
「がっは……」
口から血反吐を吐いた。
「んん~……いいねぇ……この炸裂した感覚! か・い・か・ん!」
「めっ、めぐるーーーーー!」
「ジョブも持ってねぇ癖にやるじゃねぇか? 持っていたらもしかしたらもう少しいい勝負が出来ただろうよ?」
「きっ、貴様っ!」
「てめえはすっこんでろ! ルリぃ……お前の前でこのあと小僧を殴り痛めつけてやる……んでそのあとはお前を殴りながら、あの小僧の見てる前で遊んでやるよぉ! 最高だなぁ! おい!」
フォンっ! 青い光が一瞬周りを包んだ。カウンターのほうに飛ばされためぐるは水晶に手を当てていた……
「受付さん……これで登録完了ですよね?」
「はっ、はい!」
首を縦にふる受付さん
「【ヒーリング】」
今までよりも強い緑色の光が走り体が全快した。
「これで僕はランク7の【プリースト】です。あなたよりもランクが上です」
「いっ、いきなりランク7だと!? ありえねぇ!」
「あり得なくないんですよ。めがっ……母さんのおかげでね……【筋力強化】【プロテクション】」
ビュンっ……一気に距離を詰め拳を軽くぶつける。そこから……
「なにをやっても素手でアイアン……おごっ!」
脚を強く踏み込み、全身の力を相手の体の中を撃ち抜くイメージで叩きこむ拳法の発剄!
実際現実世界はまったくできなかった技だが、身体能力を魔法で向上、そして、ジョブ獲得によるパワーアップでできる気がしたが、ぶっつけ本番でできるとは!
ボルグは泡吹いて白目で倒れてる。
『おおおおおおおおおおっ!』
歓声がギルド内で上がる!
「やるじゃねぇか!」
「ランク7とかこの街始まって以来だぜ!」
……
「えっ! あっ! どっども!」
「めぐるーーー!」
ガバッとルリさんが抱きつきて来た!
「バカバカバカっ! 危ないことして!」
泣いている。そっか、強気で振る舞っているけどルリさんも女の子なんだ。
ルリさんの頭を撫で抱き寄せながら……
「もう大丈夫ですからね……」
「めぐる……」
ルリさんが涙を拭き、頬をぱんっと叩いてから、
「めぐる……私を……あなたの騎士にしてくれ!」
「えっ、ルリさんどういうことです?」
「私のような騎士は忠義を捧げる主を見つけると強くなれる。それは自分の一生を捧げる行為だから! 私はめぐるとこれからも一緒にいたい! だから、お願い!」
凄いなこれがこの世界の騎士というジョブなのか! 単純に嬉しいし、ここから先まったく無知の僕にとってはありがたいけど……
「ぼくなんかでいいんですか?」
「めぐるじゃなきゃダメなんだ……!」
「ルリさん……お願いいたします。全く無知でダメなヤツかもしれないですが……」
「ダメなんかじゃないっ! 主! ありがとうっ!」
また、ルリさんが飛びついて来た! ダメです! 可愛すぎてニヤニヤが止まらない!
ギルドの他の人たちも
『ひゅーひゅー』
『やるねー』
『キスしろーーー』
などと茶化し立てるがそこに
「あのっ!」
受付さんの大声が響く。みんな静かになり注目する。
「あの……騒がしくしてすいません」
「……じゃないんです」
「……はい?」
「めぐるさまはランク7の【プリースト】じゃないです!」
ええっ! 確かに女神さまはプリーストって! え?
「めぐるさまは【プリースト】の【超越位階】! 【神託者ーオラクルー】なんです!」
……
……
『ええええええええええええ!』
この場すべての人間が絶叫した……
つづく