第17話(2) 凶神の演目
「おいっ! 誰が助けろって……」
「お姉さんのっ!」
僕は大声を張り上げる。
「お姉さん……屋敷の仇を取るんでしょ! ……一人じゃ無理です」
「くっ……」
「私からもお願いだ! ヴィルヘルム……一人じゃかならず殺られる。そのあと三人で凌げるほど簡単じゃない。めぐるを……私の大切な人を助けて!」
「ルリさん……」
「めぐる、ルリ……あー! わーたよ! 力を貸してくれ!」
スピカが前に出る。
「めぐる……サポートお願い……体術を試すタイミングじゃない」
確かに人間や動物ならまだしも魔神に体術が効くのかは不明。
そして、相手が相手だ……聖丈アスクレピオスを出すことはできない。他のみんなを回復させるための魔力配分が狂ってしまう。
まずは……
「ルリさん!」
「【聖斬擊の約束-セイントメントエンゲージ】」
「ぐおっ!」
グシャラボラスの顔を裂いた!
裂いた顔から湯気が出る……
「ぐむむ……聖剣か?」
「【影分身】」
五人のスピカが飛び掛かり殴ったり、蹴ったりする!
スピカがよく使う【影分身】は影に自分の魔力を送り込み実体化させる事ができる。影分身の見たもの感覚も本体で取捨選択のフィードバックできる。
「今度は軽いわ!」
グシャラボラスが両腕を使い分身を殴り消滅させる。
その影から紫炎を纏った二つの斧が叩きこまれる……
「おるぁあっ!」
「ぐむっ!」
グシャラボラスの体がくの字に曲がり屋敷の門の近くまで吹き飛ぶ……
「しゃあっ! ……これが強化か体が恐ろしく軽いし力が出る」
「めぐるは凄いだろう。このまま押しきるぞ」
キィン……セイントメントエンゲージの斬擊空間を斬りながらルリさんは歩く。
「……うん……私たちは……作戦通りに……」
「ん? 作戦ってなんだ?」
「とりあえず僕を門の近くまで……そこからは時間稼ぎをお願いいたします。勝つためにはね……」
四人がじわじわと屋敷の門の前に倒れるグシャラボラスに近づく……
「がっはあっ!」
「ちょっと痛かったよ……ほんとにね……」
グシャラボラスが瞬間その場から消え、ヴィルヘルムを殴り飛ばす!
「調子くれてんじゃねえええええぞおおおお! ガキどもがああああああああああああっ!」
「ごっふっ……」
吹き飛ぶヴィルヘルムにグシャラボラスの腕が伸びてその脇腹に犬の顔をした手の牙が食らいつく!
ヴィルヘルムの口から血が吹き出る。脇腹からも。そのまま地面に何度も強打される。
「くっ……まずいっ! 【ヒーリング】!」
回復魔法をかけるが直ぐに傷を負う。ルリさんが駆け出し!
「うりゃあああああああああああ!」
伸びた腕めがけ聖剣を一閃するが……
ガキィッン! という音と共に弾かれる。
「「「なっ!」」」
ヴィルヘルム以外の三人の声が重なる。
「「があっ!」」
近くにいた僕とルリさんがヴィルヘルムごと殴り捨てられ、屋敷の塀に叩きつけられる!
「「「ぐっ……ううっ……」」」
【ヒーリング】を唱えようにも叩きつけられた際、肺の中の空気のが衝撃と痛みと共に呻き声しか出させてくれない。
「……みん……なっ……ふっ!」
ブオンッという横殴りをスピカは宙返りをして避ける。そして、緑の小刀である疾風を振るう。すると円上の風のカッターのようなものが回転しグシャラボラスめがけて飛んでいく。
「ぬっ!」
グシャラボラスの胸に当たったが薄皮一枚切れた程度だ。
「その武器はなかなかに業物だな! 武器の名は!」
回復する時間を稼がないと……
スピカは思った。
「……鬼神刀……疾風……いいやつなの?」
「ああっ! 素晴らしい刀だな! 使い手がまだまだだがな!」
「……ふーん……」
ちらっと……
三人の様子をスピカが確認する。
「二人とも……頼みましたよ……【コンタクト】」
めぐるのぼそぼそという小声が聞こえて、めぐるの意識がなくなったのを確認した。
ゴオッ! と紫炎が舞い上がり……
「いってえ……マジでいてえよ……やってくれたなコラ……」
「……後ろでめぐるが頑張る……それだけで私は立ち上がれる!」
「ほうっ! まだ立ち上がって遊ばせてくれるのか!」
「うるせえ! 【紫炎爆斧】!」
体から立ち上がる紫炎を斧に集め、その斧をグシャラボラスに向けぶん投げた!
「はっ! そんな大振りがあたるわきゃねえええだろおおお! ……ん!?」
「……スキル……発動……【影縛】……あっ!」
グシャラボラスの足に影がまとわりつく!
スピカは本来、グシャラボラスの体全体に影をまとわりつかせ拘束することが狙いだった。しかし、グシャラボラスの力を今の自分では抑えきれないことを瞬時に察知し全ての影を足に集中させた!
「はんっ! 力不足だなあっ! ざんねえええええええん! 受け止めてやるよおおおお!」
キィン×2!
「……【聖斬擊の約束=セイントメントエンゲージ】」
腕を前に持ってこようとしたが斬擊に退路を絶たれる。
「なっ!?」
「私の斬擊がまだ貴様を斬れずとも、その約束の斬擊は消えないよ……」
ガシャっ……ルリとヴィルヘルムの籠手が友情の証のようにぶつかる。
ドグシャっ!
斧が胴体に深く刺さる。刺し口から紫炎が一気に吹き上がり炎上する。
「ぬあああああああああああああああ!」
グシャラボラスは呻き声を上げて倒れる。
「しゃあっ! ……ててっ」
「体中が痛いよ……めぐるに治してもらはないと」
「……」
「ん! スピカ? どうし……た……」
スピカが何も言わない。
二人の会話が止まる。
「はっはっはああああ! どうだろう!? この感動的な勝利の演出は! どこかで見ているアモンよ! 楽しんでくれたかね!? ちょっとここまでやるとは思わなかったが!」
「スピカぁっ! おいっ! スピカぁっ!」
「うそ……うそよ……いやっ! いやあああああああああああああ!」
「……」
黒く沈んだ目のスピカは何も言わなかった……
いや……言えなかった……
なぜなら……
後ろからアモンに胸部を貫かれて絶命していたから……
つづく