第17話(1) 凶神の演目
「おはよー……ってなにしてんの!?」
「……ひざまくら……ずるいー……」
数時間後、ルリさんとスピカが目を覚まして馬車を降りてくる。
自爆したヴィルヘルムはそのまま気を失っていたのでとりあえず、地べたに放置は行けないだろうと思いひざまくらをしてあげていた。
寝起きとは思えない素早い動きで近付き、ルリさんがヴィルヘルムを引き剥がし両手で肩を掴みぶんぶん振る。
「お~き~ろ~! 何をしていたか説明しろ~!」
「はっ! あたしはめぐるに積極的なことをするって言われて!」
「なにいっ!」
「言ってない。言ってない」
改めて作ったホットミルクを飲む……
入れ替わりでひざまくらをしている今にも二度寝しそうなスピカの頭を撫でながら……
「……うにゅ……めぐるー……もっとしてぇ……」
「はいはい」
「はいはいじゃなーーーーい! ずるいっ! ずるいぞ! 最近私には何もないじゃないか!」
「いや、その前にあたしがひざまくらをされていたのか……? ……ぷしゅ~」
また、ヴィルヘルムが倒れる。
「「いい加減にしろー!」」
僕とルリさんの言葉が重なる。
……
……
……
「あそこが屋敷だ!」
王都を出て三日が過ぎたころようやく屋敷が見えて来た。築年数が結構経っていて、襲撃を沢山されているというのに外観は凄まじく綺麗だ。
しかし、それは今までの出来事を考えてるかなり不自然であり異常な光景とも思える。
かえって不気味かも知れない。
門の前に誰かが立っている。
黒い執事服を着た坊主頭の男だ……
これはもしかしてとめぐる、ルリ、スピカの三人が考えてる最中……
「きっさまあああああああああああっ!」
ドゴッ! と凄まじい爆発音と強い風が吹き荒れる!
「人違いか? 私の知っているヴィルヘルムお嬢さまはこんなに野蛮でゴツい女ではないはず……はて?」
「会いたかったぜ~? ラボラス! 殺してやる! 殺してやるよ!」
「ふんっ!」
「ぐう……」
ヴィルヘルムの斧を防いでいる腕が振るわれる。ヴィルヘルム自信も弾き飛ばされ5メートルほど距離があく。
ヴィルヘルムは両手に持つ長い斧を握り直す……
「ヴィルヘルム! こいつが!」
少し遅れてめぐるたちが馬車を降りて合流する。
「手ぇだすなっ! こいつはあたしが殺すっ! 殺さないといけないんだ!」
ヴィルヘルムの握る小野に紫色の炎が上がる……
「でりああああああああああああああ!」
ガキィッン! ガキィッン! ガキィッン!
豪腕から繰り出される斧を腕で受け止める。
「なるほど、その紫炎……少しづつではあるが私の腕を蝕んでいる! まさしく、フェネクスの炎! ということはっ!」
「がっは!」
斧から繰り出される斬擊をよけ、腹部を殴る。ヴィルヘルムはこちらまで吹き飛ばされる。すぐさま駆けよりめぐるが回復魔法をかけようとした時に気付いた。
紫色の炎が傷を覆い癒している……
「これは……」
「これが奴にいれられた力だよ。あたしはどんな致命傷でもなおっちまうんだ」
「……うそ……」
「そんなことって」
「あなたの仕業ですか? ラボラス……いや、72柱の1柱グシャラボラス!」
「グシャ……ラボラス」
「おや……どなたか存じませんが私を知っているとは……」
「おい! めぐる! グシャラボラスってなんだよ! 72柱って!」
「この世界には72柱といって悪魔や天使を越えた存在の魔神がいます。奴はその一人です」
「左様です……ぐっ……あああああああああああ!」
執事の服が徐々に破れていき、背中からは緑色の鷲のような羽、右手は狼に近い犬の顔が手に、左手は鷲の顔になった。そして、骨のような太い尻尾が現れ、目は真っ赤に純血していた。
「私が72柱序列25位伯爵の爵位グシャラボラスだっ! ぬんっ!」
左手にあたる部分の鷲の口が開いたと思うと、
「ぐわぁっ!」
「「「きやあっ!」」」
僕たち四人が立っていた場所が吹き飛んだ。おそらく空気の塊を飛ばしたのであろう……
「【ヒールサークル】」
対象を自分を含めた四人に設定した。
足元に光輝く魔方陣が形成され先ほど受けたダメージを回復させた。
「ほう……ヒーラーがいるのか……なかなかにレベルが高い……やつから潰すか」
「くっ……やめろおおおおおお!」
ボコッ!……腕でが伸びて強力な一撃がめぐるたちに飛んでくる……
見えないほどの砂ボコりが舞う中、声が聞こえた……
【シックスセンス×4】【プロテクション×4】【筋力強化×4】【ラピッド×4】
「なっ!?」
少し離れた位地にいたヴィルヘルムも力が湧いてくるのが感じられる。
「ふんっ……手応えなしか……」
煙が晴れると光る剣を持ったルリが間に割って入り犬の顔をした拳を、牙を受け止めていた。
「……みんな反撃開始です!」
つづく