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プロト版 あんたプリーストでしょ!~嫌われもの異世界転生~   作者: げんげんだの
第4章 金色の女神と鮮血の魔神
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第15話(4) 幻影館


 ラボラスという坊主頭の執事が来てから環境が悪化した。

 まずは、金貸しが家に返済を求めて来たところを父親が家にある剣で惨殺した。

 急展開すぎるが当日の父さまの暴力性が尋常じゃないほど増した。姉さまは当日4歳だった私と常に一緒に居てくれた。そして、屋敷内では鬼ごっこのような具合に父が近付いたら逃げていた。


「旦那さまは家長です! あなたのおかげでメルヒュン家が成り立っているようなもの! 感謝の意を示さない愚か者はこの屋敷にはいりません! いや! 生きていては行けないのです! 奥さまもそう思いますよね!」



 ラボラスが叫ぶと母さまも髪をかきむしりながらナイフとフォークを握り逃げようとするメイドや使用人を殺して言った。

 この屋敷は恐怖の屋敷と化した……

 姉さまは以前より怪しく思い屋根裏を改良して食料や日用品を溜め込み、一週間あたしとともに隠れたが精神に限界を来していた……


「あのガキどもは何処に行った! 探し出せ!」


 下で声が鳴り響く……怖さで押し潰されそうであった。

 そんな中でも姉さまは楽しいお話を聞かせてくれた。


 しかし……

 いくら広い屋敷とはいえ隠れ続けることはできず、そこから三日ほどで見つかり捕まってしまう。


「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」


「ヴィルヘルム! やめて! お父さま! お母さま!」


 姉さまは使用人に取り押さえられた。5人係りで組み伏せられたので抵抗してもびくともしない。


「ヤコプ! ヴィルヘルム! お前たちは私たちの言うことの聞かない愚か者だ! 罰を受けなければならない!」


「いだああああああああああああーーー!」


 アタシは母さまに背中をナイフで数回刻まれる。当時4歳だったけど今でもあの時の痛みを思い出す……

 

「お母さま! やめてえええええ! ヴィルヘルム! ヴィルヘルム!」


 姉さまは唇が少し切れて血が出るほど叫んだ。そんなとき、あいつが来たのだ。


「おおっ! 我が信頼できるラボラスよ! 言われた通りに行ったぞ!」


「流石ご主人さまであられる! さて、私も目的を果たそうとするかな?」


 ラボラスが傷だらけのアタシの背中に手を当てると自分の体に何かが入ってくる感覚があった……


「いやあああああああああああああああ!」


「ほう……一柱は成功ですか。やはり、普通ではない。もう、二柱行きますかね?」


 体に憎悪、異物……良くわからない重たい重圧が入ってくるようだった……地獄があるとしたらまさにこんな目に会うんだろうなと思った。

 そんな地獄の時間が終わりラボラスが口を開いた。


「裏切り者が三柱も入るとは素晴らしい! この屋敷で遊んでいた甲斐があります! さっ、お二人とも! あとは自由に遊んでください! 貴方たち程度であればヴィルヘルムもいくら刻んでも問題ございません」


「ああ! そうさせてもらおう!」


「ふふっ! 楽しみだわ!」


 ラボラスが下がると両親がニヤニヤしながらあたしに近付いてくる。


「もう……もう、やめてえええええ! やめなさあああああああいっ!」


 ふと薄れる意識の中でも姉さまのほうを見ると姉さまの横に自分ほどの赤い頭巾を被った女の子が立っていた……顔は頭巾の暗さで見えない……


「へ?」


 自分の上から間の抜けた声がした……上に目をやると母さまの腹にハサミのようなものが刺さっていた……


「ひっひやああああああああ!」


 赤頭巾は母さまの腹をそのまま縦に裂いた。そしてそのまま横にいる父さまの顔に飛び付き後頭部に何度もハサミを刺した……父さまは一切抵抗することなく絶命した。


「やはり! 貴方もでしたか!?」


 ずんずん歩きながら姉さまにラボラスが近付く……赤頭巾がラボラスに飛び掛かるが、片手で薙ぎ払われ霧のように霧散する。

 姉さまの顎を掴み顔を見るが姉さまは白目を剥いて意識がなくなっていた。

 

「ふむ……覚醒がいきなりすぎて意識がショートしましたか……まあよいです! ……さて!」


 懐から出した水晶を姉さまの手に触れさせると水晶は光が輝き、またしてもラボラスが狂喜した。


「素晴らしい! 私は素晴らしい傀儡を二つも手に入れることができた! これから! むっ……なんだこれは!?」


 姉さまの体が徐々に石になって行く……


「私に何が起こったのかはわかりませんが……これ以上貴方にこの屋敷を! 私の大切な妹を好きにはさせません!」


「何を勝手なことを……二人とも私のおもちゃ」


 ズドンっ……銃声が響きラボラス腹部から血が流れ出てくる。そして、異空間のような次元からは野獣のもののような獣の大きな手が出てきてラボラスを掴んだ。


「復活したばかりで力が戻りきっていないとはいて成り立ての超越位階者にここまでやられるとはな……だが! お前ら二人は私のものだ! ……果実が実るのを待つのもまた一興! 夢々忘れるのではないぞ!」


 ラボラスは野獣の腕と共に引きずり困れた。そして……


「なっなんで私たちまで!」

「いっ嫌だ!」

「ひっひいいい!」


 押さえつけていた使用人たちも同様に野獣の手に捕まり引きずりこまれた。

 姉さまの石化はどんどん進んでいてすでに体の下半身は石と化していた。

 あたしは泣きながら体を引きずり姉さまに近寄ろうとする。

 姉さまも同じだ。


 二人の手が重なり繋がれる。


「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」


「私の可愛いヴィルヘルム……あなたは私の何に変えても守ります。この屋敷は貴方を守るためにあります。私……私の力を全て注ぎ込みます……私の心は何よりも貴方の側にいます。私の分も幸せになりなさい。ヴィルヘルム」


「お姉ちゃん! 嫌だよ! お姉ちゃん! お姉ちゃん! 側にいてよ!」


「ごめんなさい……ヴィルヘルム元気で……」


 姉さまが完全に石化するとあたしの意識も途絶えた……



……


……


……



「そこから10年。あたしは屋敷の図書館を使い回復者なるものを知り現状を変えられる可能性を見つけた。あたしは何に変えても姉さまを助けるつもりだ」


「そうだったのですか……そうしましたら、話に聞いた屋敷に入るものが殺されるというのは……」


「ああ。姉さまの何かしらの能力だ。あたしも姉さまの能力のおかげで生きてこれている……姉さまが石になった後、金貸しの雇ったギルドや盗賊、話を聞いた王都、帝国、聖教国の兵が屋敷に攻め込んで来たが敷地に侵入すると世界が変わるんだよ」


「……世界……が変わる?……」


「そうだ。まるで姉さまのお話の中の世界に変わる。まさに別の世界としか言いようがない……石になった今でも屋敷を……あたしを守ってくれようとしているんだ」


 ……話を聞いて思ったことはヴィルヘルムのお姉さんは超越位階者であること。数多くの屋敷に踏み込んだ人間が恐怖する幻影館の名にある通り、踏み込んだ人間に幻影を見せるが決して幻ではなく、この中で受けた傷、痛み、死は現実のものとなる……


 ……そして、僕はいろいろな起こった事象を聞いたことがあるということ……


 

「しかし、ヴィルヘルムもそのラボラスとかいう執事に何かされたのでは? 超越位階者であるレイナを昨日は圧倒したと聞いたけど」


「守られるばかりではね……屋敷で姉さまの幻影の一部を相手に実戦形式で鍛えてもらっていたんだ。生きるためと訴えたら幻影も言うことを聞いてくれた。それ以外はあたしの声は届かないよ……だから、侵入者に行われる惨殺、拷問を止めることが出来なかった。あたしの持論だけどね……三国の兵隊が一番侵入者の中で大したことがなかったよ。ほとんどが人を殺したことがない、安全な所で訓練をしていただけの人間……何年も訓練をするより人を一人殺したほうが強くなれる。覚悟がねえんだよ」


「そうなんですね。僕は人を殺したことがないので甘いかもしれないですね」


「そんな偉そうなこと言ってるが、結局の所はただの人殺しで、三国相手にタカってるただのハエみたいなもんだけどな。今後まともな生活ができるわけがねえ……」


「まだ、子どもの僕が言うのも変ですがヴィルヘルムは14歳でこれから人生はまだまだあるのでそんなにすぐに諦めなくてもいいと思います」


「……めぐる」


「てか、ヴィルヘルムって14歳なのっ!? あたしと同じくらいかと思ってた!」


「ん? ルリは何歳なんだ?」


「え!? 今この流れで聞く!?」


「……21……結構……いい歳……独身……」


「なんだよ。結構いい歳してんな」


「こらー! スピカっ! ヴィルヘルムっ!」


 三人ではしゃぐ……やはり、こういう時でもルリさんとスピカは本当にいいコンビだなって思う。重たい空気を変えてくれる。この二人には本当に助けられている。

 そして、ちょいちょい気になっていたことを聞く。


「だいたいどのくらいには皆さん結婚しているのですか?」


「……10~20……がふつう……」


「確かにそのくらいだな。両親は14で互いに結婚していたし、姉さまも本当はあたしが生まれる頃には結婚する予定でそのとき17だからな」


「ぐっ……」


 ルリさんが渋い顔で青ざめ両手両膝を付き明らかに落ち込む……


「でも、ルリさんって幼なじみもいて前にチームを二人で組んでいて、旦那ってからかわれていましたよね? あの人は違うんですか?」


「おっ! いんじゃねーか!」


「……ルリが……う……そ……だ……」


「おいっ! スピカ! どういう意味だ! ……あれはただ腐れ縁でギルド登録とかに付き合ってやっていただけだ。それに幼なじみとはいえ12の時に会っただけであってそんなに幼い頃からお互いに知っていたわけではない」


「……だよね……ルリごとき……許嫁とか……ありえない……」


「さっきからの喧嘩買うよ?」


 ルリさんが恐いほどの笑顔でスピカを見て聖剣に手をかける。


「ルリさん。僕のいたところでは結婚は早い人で18~25。最近は30~40が普通くらいになっています。それに皆ルリさんの21歳をイジって来ますが僕はルリさんの素敵なところいっぱい知ってます。もしも、相手がいなければ僕なんかでよければって思って……」


「ほんとかっ!?」


 一瞬で距離を詰める。戦闘じゃないんだから……肩を両手で掴みぶんぶん揺さぶられる。


「みんな聞いたな! 言質を取ったぞ!」


「……わー……わー……きいてないー……」


「あたしも良く聞こえなかったわ……」


「お前ら~!」


 たき火の前に四人の笑い声が響く……



……



……



……



 夜の暗闇の中、一本の高い木の頂上に執事服を来た坊主頭の男が立っている。

 男の目には少し離れた位置にある幻影館が写っていた。

 ふと男の背後に羽の羽ばたき音が聞こえる……


「……アモンか。久しぶりだな」


「ええ。お久しぶりです。……ラボラスとお呼びしたほうがよろしいですか?」


 梟の顔がおぞましくニヤリと笑う……


「ふっ……普通に72柱の名グシャラボラスでよいわ」


「そうでしたか……ちなみにあの館が貴方が丹精込めて作り上げたお城ですかね?」


「そうだ……妹のほうも一柱を飼い慣らして来ているからそろそろ収穫時期だな……」


「ふふっ……楽しみにしておりますよ」


「ああ……私も楽しみだよ」


 月夜をバックに二つの強大な邪悪が笑い合う……



つづく

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