第15話(2) 幻影館
「めぐる! 遅かったね?」
「ただいま。ルリさん、スピカ、ついでに買い物をしていました」
「……おかしー……」
「ごめん。おかしじゃないんです。これを二人に」
「……なにこれ?」
「イヤリングって言って耳につけるやつだよ。でも、どうしてこれを?」
「単純に雑貨屋さんに二人へのプレゼントを買いに行きました。そうしたらこのイヤリング、左右にそれぞれ一つ使いきりにはなるけど魔法を付与することができるそうです。それぞれ上級魔法【ホーリーヒール】【リープ】を付与してあります。危ないときは無理をしないで必ず使用してください」
「めぐる。私たちのために」
「先ほどのパイル村の一件を考えた時、一番最初に二人が浮かびました。これがあれば余程のことがない限り大丈夫だと思います。ほんとはただのプレゼントを買いに行ったんですけど効力を見たら買ってしまいました」
「……うれしい……ありがと……」
「ああっ! 早速着けてもいいか!」
「はいっ! 是非!」
「……」
るんるん気分で着けようとするルリさんとは裏腹にスピカはじっとしてる。
「スピカ?」
「……せっかくの……贈り物なのに……私の耳につける……穢れる……ひゃ」
ルリさんと一緒にスピカの頬っぺたをつねる。
「……ひはい……ひゃにをする……ひゃめれ……」
「スピカ。怒りますよ?」
「前にも言ったが私とめぐるの前ではスピカはスピカだ。めぐるのプレゼントを受け取らないほうが失礼だぞ」
「……ひぇも……」
「ルリさん、着けてあげてください」
「了解した!」
……イヤリングを着けたスピカは鏡の前でイヤリングを見る。
「……かわいい……この……イヤリング……」
「ふっふ~ん! ほら! スピカ! お揃いだぞ! お揃い!」
はしゃぐ二人を見て心からプレゼントして良かったと思った。
……
……
……
「明日、面会ですか!?」
食事の際、陛下が提案してきた。
「ああ、勝手に取り付けてしまい申し訳ない」
「はぁ……でも何故ですか?」
「幻影館を聞いたことあるかね?」
「幻影館?」
「めぐる……幻影館とは約25年前、入ったら最後生きて出てこれないと言われている王国と帝国の丁度中間に位置する館のことよ。聖教国からも行けなくはない距離ね」
「入ったら最後……」
「実際の事実は国からの調査団合わせて数千人が入り3人の調査員が生きて出てこれたが数日後自殺した。調査員の話では……」
さまざまなことがおこった……
小さい子供たちとの遊びによりバラバラ
少女に暖炉に突き飛ばされ焼死
出された食料に毒
心臓を抜き出しそれを叩いて音楽を奏でる
石を腹に詰められる
足を刃物で切られる
肝臓を抜きとり食べる魔女
など……
「怖いけど何処かで聞いたことあるような……」
「その後、幻影館は完全に封鎖された。そして、幻影館の主が二人いて、その二人は【金色の女神】と【鮮血の魔神】と言われていて、各国が支給品を配布し不可侵というルールが決められた」
「まさか、僕たちに会いたいのって……」
「鮮血の魔神だよ」
僕は席を立ち上がり……
「陛下、王女さま……短い間でしたがお世話になりました……僕たちは次の旅にでます……」
「ちょいちょい待ってくれ! 目の前で断る素振りを見せてもらえないかね!? 謝礼金も出す。我々も困っているのだ。断ったその場で【リープ】を使って逃げてくれて構わないからさ!」
「陛下にもお世話になっておりますし、その条件ならばお引き受けいたします」
「助かるよ。出来ればもう少しゆっくりとしていってもらいたかったが……近くを通ったら必ずここに立ち寄ってくれたまえ」
「はい」
「めぐる。大丈夫なの?」
「僕の合図でルリさんの聖剣で相手の目を眩ませてその間にリープを使います。初見で対処はできないはずです」
……
……
……
夕食が終わり、着いていこうとするルリさんとスピカを説得して待ち合わせの場所へと向かう。
酒場に入るとすでに奥の席に赤毛の女性が座って酒を煽っていた。
「こんばんわ」
「あ~ん? って、ぬいぐるみ男じゃないか! 待ちくたびれたぞ! ほら! 席着きなっ!」
「はいはい……僕はエールをください」
店員さんに飲み物を注文する。この世界での飲酒は12歳から許可されているらしい。凄く酒は自分に合っているので良く飲むようになった。
「飲み物だけでいいのかよ? 男なら肉を食え肉を!」
「いや、食事自体は済ませてあるので」
「ちぇ、せっかく誘ったんだから抜いてこいよな~……それより、ほら! 王金貨1枚」
「いや、結構ですよ」
「は?」
「あなたが凄い嬉しそうな顔していたのでお代はいいですよ」
「……おっ、おう……」
顔を真っ赤にして女性は頬をぽりぽりかきながらそっぽ向く。
そして、自分が如何に恥ずかしい、いい男ぶった言葉をはいたことにようやく気づいためぐるは
「わっ……わわわすれてください!」
めっちゃ慌てた。それを見た赤毛の女性は大笑いして……
「はははははっ! かわいい反応だね! きみ……あっ! 自己紹介がまだだったね。私はヴィルヘルム=メルヒュン。ヴィルヘルムでもおねーちゃんでも好きな方を呼びな!」
「僕はめぐると言います。あらためてよろしくお願いいたします」
「おう! よろしく! めぐる! さあ、飯をって食ったあと何だっけ? まあ、何か摘まめよ!」
ステーキのような肉を豪快に頬張る……
「んでよぉ……めぐるは何歳なんだよんぐんぐ……ぱっと見年下だけどよ。何であんなんぐんぐ……に金持ってんだ? 貴族の御曹司とかか?」
何か前にルリさんにも言われた気がするなー
「17歳ですよ。ヴィルヘルムさんは……」
「ぶーーー!」
食べたものが飛んできた……お風呂入ったのに……
「マジかよ!? 歳上じゃん!? 嘘だろ? なよっとしてるし!」
「……本当ですよ。ヴィルヘルムさんは?」
顔を拭きながら答える。
「14だよ……」
「ぶーーーーー!」
今度は僕が飲み物を吹いた……ヴィルヘルムさんの髪からエールの雫が垂れる。
「おいおいっ! ったねーな!」
「まあ、半分わざとで仕返しです」
お互いの有り様を見て思わず……
「「ぷっ……はははははっ!」」
二人して笑った。こんなに自然に笑えたのはこの異世界に来て初めてのことだ。
「あー確かに納得かもです。ヴィルヘルムさんぬいぐるみ渡した時、笑顔が凄い可愛かったですから」
「さんは付けなくていいよ……てか、かわいいってなんだよ」
「ヴィルヘルムちゃん、照れてるんですか?」
「ちゃん付けはもっとやめろーーー!」
「はははははっ」
また、笑顔がこぼれる。そして、ヴィルヘルムが訪ねてきた……
「めぐるは最初から王都住みなのか?」
「違いますよ。普段は旅をしています。この世界をとりあえず周っていこうかなと思ってます」
「旅人か……めぐるはそんななよっとしてるのに凄いな……」
「ヴィルヘルムは王都に住んでいるんですか?」
「いいや違うよ……ちょっと行った所に屋敷があってそこで暮らしてるんだ」
「そうなんですか。屋敷というからにはヴィルヘルムの方がお嬢様なんじゃないんですか?」
「いや、姉さまと二人暮らしだよ……まあ、実際は一人だけどよ」
「え?」
ヴィルヘルムはエールを一気に煽り、がんっと机に乱暴に置く。
「寝たっきり起きてこないんだよ10年も……」
「病気……かなにかですか?」
「ああ……あたしはね。ずーとあたしと家を守ってくれていた姉さまにありがとうって言いたいんだ。おねぇを治せるやつを探して王都と帝国をぐるぐるさ……」
「ヴィルヘルム……」
「辛気臭くなっちまったね! わりぃ。飲み治そうや……」
「な~に真面目な話してんの?」
「ねーちゃんそんなガキ相手してないでこっちの下半身の相手してくれや!」
二人組の20中盤の男がテーブルに近付いて来た。
「……」
この時ヴィルヘルムは外に連れ出して殺してくるか? と考えていた。このまま近付いて来たらめぐるにも迷惑がかかる。その前に席を立とうとしたその時……
「お手洗いはあっちですよ?」
めぐるが先に立ち上がっており、ヴィルヘルムへと向かう男たちとの間に立った。
「どいてろっ」
腕を振り上げ殴りかかってくる……
「うげっ」
男がカウンターの方に飛んでいく……
空手や拳法にある相手の腹部を押し出すように突き蹴る【前蹴り】だ。
大抵の相手であれば腕のリーチに比べ、脚のリーチの方が勝る。
テレビの格闘技の試合だとボディバランスがしっかりしているプロ同士なので牽制や突き放しぐらいでなかなか決まらないが素人相手なら大抵がこの一撃で決まる。このケースのように少し距離がある場合大抵の奴が殴りに前に出てくる。その前に出てくる勢いと、拳、腕に力を入れているためボディに大ダメージを与えることができる。
もう一人の男は完全においてかれている。
「早く連れて帰ってくれませんか?」
「おっ……おう! すまんかったな!」
気を失った男を担いで出ていく……
「僕……力になれるかもしれない」
「え?」
「すいません! お騒がせしました!」
……徐々に店内がまた賑やかになってくる。
「ごめんね。騒がせちゃったですね」
「あ……ああっ! なよっとしてるとか言ったけどめぐるも男の子なんだな。それより力になれるかもって?」
「僕はプリーストなんです。もしかしたら回復魔法でなんとかなるかもしれません」
「めぐる……」
「何かの縁です。明日旅立つ予定になったので僕に合わせてもらえませんか……? お姉さんに」
「ありがと!」
「わかりました! じゃあ……」
「違う違う! 実はもう当てができたんだ……もう少し早ければめぐるにお願いしたかもしれない。あー、ちょっとかっこ良くて惚れかけたよ」
「そうですか」
「あのさ……また会えないかな! 姉さまが元気になったらウチに遊びにきてもらいたいんだ! 紹介したいんだ友達だって!」
「はい! 是非お願いいたします」
「うん! 絶対また会おうね!」
……
……
……
翌日、王座の間
「どういうことだよ! これないって!」
「昨日、話をした結果だ。彼らにも意志がある」
「……ふざけるなよ。そいつら連れてこい! 直接話してやる!」
「そう言うと思って連れてきている。入ってよいぞ……」
扉が騎士たちにより開けられる。
「てめえら! ついてこれないってどういうこ……とだ……よ……」
時間が止まる……
「めぐる?」
「ヴィルヘルム?」
つづく