第14話(3) ティアーズ
僕たちはブルーさんに事情を説明した。
①自分たちはランクBだけど一つも任務を受けたことがない。
②チームを組んだばかり
③三人が出会って月日が立っていない
「てなわけで僕たちはEランクの任務を受けます」
「そういう事情ならしゃーないね。あたしらだけで行くっきゃないっしょ!」
「そうですね。エリー……」
「行くって? どこかに行かれるんですか?」
「……仲間を助けに行きます! ミーの大切な……」
ブルーさんは悔しそうな顔をしていた。
「何かあったんですか?」
「私たちは周囲の街や村の為に動いている」
あれ? 変な英語混じりのしゃべり方じゃなくなってる……
よくみると先ほどまでの優しい顔とは一変していて、こめかみに血管が浮き出て歯を噛み締めているせいか口の横から少し血が流れていた。
「エリーの他にティアーズの仲間は5人……それが近くのパイル村で人質となっている。パイル村では我々が先生になって勉強を教えたり、近隣の魔獣等も倒している。しかし、先日【キャベル】という盗賊団に教われた。仲間の一人が鳥にくくりつけた手紙を読んだんだ」
「そんとき、あたしとブルーはこの王都の10連盟に出ていた。10連盟ってのはこの王都の地域のギルドからなるAランクの10チーム会合さね」
「私は会合の際、窓をつつく鳥が一大事だと知らせてくれた。そして、10連盟に助けを募ったのだっ!」
ダンッ! と机をブルーが殴る。木の机がめぎゃっと割れる……
「ブルー……」
「誰も直ぐには動いてはくれなかった! 今日は会合という名の集まりに過ぎないと! だから私はギルドに赴き協力してくれる仲間を募ったんだ!」
「【キャベル】はギルドでいうと間違いなくランクAくらい。平均5のジョブランクにボスのジェイルはランク7間違いなく危険度は高い……敵は30人くらいいるからいくら10連盟でも数チーム難色を示し中途半端に2~3チームの場合はこっちが危ないからね……」
「そんな中、君たちと出逢ったんだ。すまんね……フツーに誘ったら断られることは目に見えていたからなあなあに巻き込もうとしていたんだ。でも、君たちの内情を知ってしまった今、駆け出しチームには荷が重く確実に危険だ……せっかく出逢ったんだけどなぁ!」
ブルーさんが僕の肩をバシバシっと両手で叩き……
「しかぁっし! 君たちも困ってる人たちを助けようとしている! 人間助け合わなくてはいけない! 君たちは君たちの成すべきことをやりたまえ……我々は早急に仲間を……村の人々を助けにいく! また、どこかで会おう! シーユー!」
「そうさね! 帰って来たら先輩だし飯でもおごっちゃうよん! ばぁ~い!」
バサッっと深紅のマントをひるがえし部屋から二人が出ていく……
「……」
「めぐる?」
僕たち三人はしばらく動かなかったが重い足を動かしEランクの魔物討伐へと向かった……
……
……
部屋を出たブルーはエリーに向かい一言放った。
「これからパイル村に向かう」
「ふぃ~……ブルーと二人で戦いに赴くなんてひっさびささね!」
エリーがストレッチをすると腕がバキバキっと鳴る
「いや、私が一人でパイル村にむきゃうぐっ!」
ばこんっと金槌で殴られる。
「あんたバカっ!? いくらあんたが強いからって一人で敵う相手じゃないだろ!」
「ちょっ……ちがう! 叩かないでっ! 話を聞いてエリー! これは作戦だよ!」
「はぁ!? 作戦!?」
「そうですよ! いくら頭が沸騰してても流石に一人では荷が重いよ!」
「で! どうするんだいよ?」
「私は正々堂々正面から一人で乗り込む。相手もバカじゃないから一人は罠だと慎重になる。そこで私は交渉し時間を稼ぐ! それまでにエリーには10連盟の説得及び合流をお願いしたい!」
「あたしが説得!?」
「エリー! 君しか頼りになる! 私が信頼している人間はいないのだ! 難しいが私が行くよりは断然いい!」
「このクソばかっ! 勝手にいろいろ言いやがって!」
エリーが金槌をブルーに向かい振り上げる。ブルーは巨体に似合わずブルッと震えキュッと目を閉じた!
……するとブルーの唇に柔らかい感触が伝わる
「絶対っ! 絶対無茶するんじゃあないよっ! このクソリーゼント!」
エリーは会合の行われている高級宿へと走る……その後ろ姿をブルーは目で追いながら……
「ふっ……危険にゃさらせないね……すぅ……私を誰だと思っている! 私はぁ~! ブッルうううううううう……バインっ! ランク8【剛力拳闘】の男だぞおおおおおお!」
その咆哮はエリーを煽る追い風のように響きエリーの足をなお加速させた。
……
……
……
ブルーはパイル村の入り口に着いた。
「よお……あんたがティアーズリーダーのブルーか?」
「そうだっ! 私がぁ~! ブッルうううううううう……バインっ!」
村の入り口にてブルーは叫ぶ、入り口には武装した盗賊が20名はいてブルーの大声に一本後退りした。少し奥には縛られて震えている村人たちがいた……
「みんなああああああっ! 私だぞおおおおお! ブッルうううううううう……バインっ!」
口を塞がれているが村人たちの顔に少しばかりの希望が溢れたのをブルーは感じた。
ブルーは深紅のマントをひるがえし、その場でバク宙をして着地と同時に丸太のように太い拳をバシッと相手に付きだした。
相手がどよめく中、付きだした拳を反対に向け開き煽る……
「カモンっ! 雑魚どもおおおおおおおお!」
平均ランク5の盗賊たちの中で何がプツンとキレた……
「上等だこらああああああああああ!」
「なめるなあああああああ!」
20名ほどがブルーに走って突撃してくる! ブルーは拳を構え叫ぶ!
「スキル発動おおお【チャージ……ジャスティス】!」
ブルーの拳が白く光輝き、装着している白い鎧の籠手がメキョ……メキョ……っと筋肉の膨張で歪みそうになる……
「すぅ……【ジャあスティスっ! パァンチャアアアアアアアアアアアアアア】!」
溜めた拳で相手の盗賊を振り抜く!
「!?」
声も出す暇与えず8人くらいの盗賊が殴り飛ばされる!
殴り飛ばされた8人くらいがぶつかった木がへし折れ倒れた!
「ヘーイッ! ストライクっ!」
「うりゃああああ!」
飛びかかる盗賊の足を掴む。
「うわっ! 離せこらっ!」
「ふふんっ! いい~鈍器ですね! 【ジャスティス! ホーーームラーーーンっ】グレイトっ!」
びしっと親指を立てグッドサインを村人たちのほうに向ける。
野球のバッターのような人間バットのフルスイングで4人を吹き飛ばし、バットの男も投げ捨てた。あっと言う間に敵の数を半分に減らした。
「ヘーイッ! みなさーん! 私が来たからにはもう安心でーす!」
びしっと1本指を天に上げポーズを決め片手でけつアゴを擦る。
パチパチっ……
「……んっ?」
急に鳴り響く拍手の音に目をやると、ギョロ目をして下を出したひょろっとした男が立っていた。身長は自分よりも少し小さい、ぼっさぼさの肩まで伸びた髪に肩には汚ならしくフケがついている。明らかに不審者だが雰囲気がただ者ではない……
「お前何者だい?」
「私はブルー。貴様は?」
「ジェイルというんだ。あっ……あんたはこいつらのなかまかい?」
ぱちんっと指を鳴らすと
「ぐっ……うう……」
という呻き声とじゃらじゃらとなる鎖の音が近づいてくる。
「早く歩けカスがっ!」
「ぎっゅ! ぐっ! ふーふー!」
別の盗賊が引いてきた鎖の先が見えて驚愕した……
その先には自分の仲間5人がそれぞれ両手に穴を空けられそこに鎖を通され血を流しながら、一糸纏わぬ姿で引きづられてきたからだ。
仲間の肌には見るも無惨な拷問の傷のあとが痛々しいを通り越し吐き気すらでそうになる……
「きっさまああああああああ!」
「うるせい。おいっ」
「ぎぃやああああああああああっ!」
ドシャっと仲間が一人倒れる。足の小指を切り落とされていた。
「ブルーったよね? おいらの許可なしにしゃべったらマジ仲間殺すから」
「ぐっ……卑怯ものめ……」
「あっかちんときたよ」
どくち……
「うっぎゃああああああ! めっ! 目があああああ!」
「やっ! やめてくれ! 頼むっ!」
「はあ? なにその口の聞き方? 命令? ムカついちった……」
ぶちんっ!
「はがあああああああああああああああ!」
仲間の口の中にペンチのようなものを突っ込み歯を2本抜き取った……先ほどの希望に満ちた村人の顔が一変して恐怖へと変化した。
「次はこいつの舌を引き抜こっかな~」
ガシャっと音がしてブルーは地に両手両膝を着いて
「お願いいたします……仲間には……仲間には手をださないでください」
「ふざけんじゃね! こっちは何人やられたんだと思ってるんだよ!」
「ぎゅいいいいいいいい!」
仲間の腕にナイフが刺さる。
「すまない! すまない! 私が全ての責め苦を受ける……受けます! だからお願いいたします!」
「ざっけんなよ! 何様なん……」
「まあ待ちたまえよ。待ちたまえよ」
「……頭」
「ブルーくんとやら……君の仲間の苦痛は全部君が受けるのかね?」
「はいっ! 私が受けるので!」
「マジかよ! 死ぬぞ! 死ぬほど痛いぞ!?」
「だから仲間には!」
「……っかあ~、聞いたかね……聞いたかね聞いたかね聞いたかね聞いたかね!」
ジェイルは涙を流しながら、ブルーの仲間に拷問している盗賊に話しかける……
「いや~ブルーちゃん! 仲間思い! 泣けるぜ! なあ……そんな大切な人質にさっ! 勝手! こいて! くれてんだよ! なあ! おいっ! なんとか言えよ! こらっ! おいっ! 動かんかい!」
仲間にいきなり逆上して盗賊が持っていたナイフを奪い仲間であるはずの盗賊を刺した……何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も……
「ブルーちゃん! おいら感動しちまったよ! では、おいらの仲間を痛め付けた罰を受けてくれぃ……殺したり、切ったり、折ったりはおいらがしたいからお前らはいつも通りぼこぼこにしてやってくれぃ……ちょっと、遊んでくらぁ」
ジリジリとブルーに残った盗賊10名ほどが近づいてくる……
ボゴッ! ドゴッ! という鈍い音を背にしてジェイルは近くの家に入って行った……
……
……
……
「ひゅ~。まだ意識があるとはタフだねぇ……流石はブルーちゃんだよぅ」
2時間ほどしたらジェイルは戻って来た。先ほどとは違い上半身は裸に下はズボンのみ。ズボンの腰には1メートルほどの剣が装備されていた。頭をボリボリ掻きあくびをしながら
「ぐっ……耐えきってみせた……ぞ。皆を解放……してくれ……金ならある……」
深紅のマントは破れてボロボロ、身体中に打撲痕、自慢のリーゼントすらぐちゃぐちゃに崩れて顔も腫れ上がっていた。
「んんっ? そんなこと一言も言ってないし解放なんて話題にすら出てないよなぁ……」
「た……たの……む」
「んでもまあ! おいら優しいから解放しちゃるよ! おいっ!」
ジェイルが合図を送ると先ほどの部屋に仲間が入って行った……地に伏せているブルーからは見えないが何かを担いで出てくるとドサッとブルーの前に落とした……
「そっ……そんな……そんなあああああああああ! マリーいいいいいいいいいいいいいい!」
目の前にいた少女はこの国では珍しい獣人の少女だった。以前ブルーが受けた任務で奴隷禁止の王都で悪徳商売を行っている店を襲撃したときに助け出した獣人の女の子で名前はマリーという。
救出後はブルーたちが良くしているパイル村の村人として村の皆から受け入れられ少しずつ奴隷のころに受けた傷が癒えてきたころだった……
「ころすっ! ころしてやるううううううう!」
ブルーは心からこれほどまで人間に憎悪したのは初めてのことだ。
目の前に投げ捨てられたマリーは裸で体には無数の火傷や鬱血、切り傷などの拷問のあと。耳は端を切られて取れかかっており、足は両膝ともに反対側に折れ曲がり、身体中には男の体液が付いていて彼女の体からは排泄物の悪臭も漂う……
そんな彼女を抱き締めブルーは叫ぶ
「なぜだあああああ! なぜこんなことが平然とできるうううううう! ああああああああ!」
「うるっせい!」
「ぎゃつうああ!」
ブルーの仲間の耳が削ぎ落とされる……
「ぐっ……」
ブルーは歯を食い縛り、鬼の形相のような目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「そしたらまずは抵抗できないように腕から壊して行きましょうか……」
ジェイルが近付こうとしてきたときジェイルの前に黒いフードを被った小柄の黒マントを着た人物が瞬時に現れた、
「うおっ! なんだっ!?」
周りの盗賊からも同じような声が響き、周りを見渡すと30人くらいのフードを被った小柄の黒マント集団が出現していた。
「なんだってんだ! こいつらはよおっ!」
ジェイルは腰から剣を抜き、黒マント目掛けて叩き落とす。
ガキィンッという音が響き、フードが捲れ銀色の綺麗な髪流れる。
その銀色の綺麗な髪と同じように、綺麗な緑色の刃をした逆手に持った短刀でジェイルの剣を受け止めていた。
「うおっあっ!」
その二人を中心に突風が吹き、ジェイルを数歩後退させた。
ブルーは何が起きているのかわからなかった。ただ目の前に現れた黒マントの集団と、銀色の綺麗な髪に目を奪われていた。
ふと、急に自分横に二人の人間の気配がし視線を向けるといつの間にか自分の横に人が立っていた。
視線を上に向け誰なのか確認する前に声がした。
「困っている人がいたら助ける……人間助け合いなんでしたよね?」
声を聞き誰なのがわかり泣きそうになる……
「きっ……きみたちぃ……」
先ほど話を聞いてくれた少年の姿がそこにはあった……
つづく