第14話(1) ティアーズ
「……つかれた!」
僕は星空の下にいます。正確には城の屋の上で寝そべっている状況です。夜風がお風呂で火照った体にあたりとても気持ちいい……油断すると眠ってしまいそうだけどそれ以上に星空が綺麗過ぎて目を奪われて寝る所ではない。あとはこのお城は30~40階の都会のビルに匹敵する高さがあるので下を見たら確実にアウト……一面の星空を観賞しながら今日起きた出来事を振り替える。
御前試合の後、陛下と王女さまと食事を行った。今まで食べてきたものよりもとても美味しく綺麗に盛り付けられた食事に本音をいうと、所作等気になることが多すぎて僕たち三人はやはり会わなかった……
陛下は僕たちを褒め称え、王女さまは聖杖アスクレピオスについてひたすらに語っていた。ぶっちゃけ色々気になりすぎて覚えていない。
そして、食事が終わったあとが問題で大浴場を借りることとなったのですが……
……
……
「なんでっ……なんで二人とも入ってきているのですかーーーーー!?」
浴場に僕の声が反響する。25メートルプール位はあるであろう大浴場。マーライオンのようなライオンの口からお湯がどんどん足されていく……ざぁーっという音を書き消すような僕の声が響く。何しろ目の前にはルリさんとスピカ二人が立っているからだ!
ルリさんはナイスプロモーションの体つきで、きゅっと締まっているが大き過ぎず、そして小さな過ぎずという理想的なボディー……
スピカは小さい身長ながら爆弾と思わせるような立派な凶器を胸に持ち込んでいた。
「なんでって、めぐるがお風呂で倒れないように私たちがフォローするために入ったんだよ」
「……めぐる……背中ながすー……」
「っ! じっ自分でできますからっ!」
くっそ! 素晴らしい光景だけどDTには刺激が強すぎる……なんなんだよ! ルリさんは前にタオルを垂らして隠してるつもりかもしれないけど、湿気で張りついて肌も少し透けてて後ちょっとだし、スピカにいたっては背中を流すといいつつタオルすらもってねーじゃないですか!? なにで!? なにで!? 背中流すつもりなの!? もしかして、おっぱ……
『め~ぐ~ちゃ~ま~……』
ぞくっ! 恐ろしい声を聞いたような気がしたと同時にお風呂にいるのに寒気がした……
「ごっごめっ出る! もう出ますからっ!」
とあわてて出ようとしたとき足がもつれ、ルリさんに突撃してしまった……ばっしゃんっ! という音がなったのだが僕の全神経は全て体の全面に集中していた。
「……んっ! めぐる。大丈夫か……ひゃんっ!」
僕の顔は柔らかい二つのモノに挟まれていた。
「……ルリ……ずるいよ……んっしょ!」
「っ!?」
なぜだー!? 背中にも柔らかい感触が!? サンドイッチかこれがサンドイッチの気持ちなのか!?
……ならば身を任せるのも一興!
軽く体を動かしたとき……
「あっ……んっ!」
二人の甘い吐息が漏れる……ここで行かなければ男が……
『……めぐるさん?』
ピタッと驚くほど理性が戻りました。そして見えない精神的プレッシャーと本能が……
ダメだ……今動いたら殺される……
という謎の恐怖に襲われる。僕は自然と……
「【リープ】」
……着替えのある脱衣室に戦線離脱した。ふぎゅっ! という二人の声が遠くに聞こえ、直ぐさま着替えまたリープを唱え今にいたるというわけだ。
「はぁ……なんか勿体ない……勿体ないよ……」
ため息をついた。すると予想外にも返事が返ってきた……
「何が勿体ないの?」
「えっ!?」
僕は上半身を起こしあたりをキョロキョロすると斜め後ろに勇者であるヒカリが座っていた。
「ごめん。驚かせた?」
「どうしてここに?」
「ここ……私のお気に入りの場所なんだ……」
「そうですか……では僕は失礼します」
立ち上がろうとすると袖を捕まれる。
「待って! ……話がしたいの」
「なんですか? 王都騎士団には入らないと言いましたし、勝負の約束は僕たちに関わらないということですが?」
「もちろん勧誘はしない! ……ただ、このままお互いに干渉し合わないのは良くないと思うの! 身勝手だってわかってはいるし、今まで私たちの言葉であなたを不快な思いにしたのは本当に申し訳ないと思ってるの! 言葉はしっかりと考えた上で話す! だからお願い少しだけ話す機会を頂戴っ!」
目には既に涙が溢れんばかりに溜まっている……確かに色々と身勝手ってなことを言っているが僕も正直ムキになっていて挑発的だったと思う……また屋根の上に腰をおろす……
「……僕もムキになりすぎて、挑発的な態度をとってしまっていました。そうしましたら少し話をしましょうか?」
ヒカリ顔がぱあっと明るくなる。が、またすぐに暗い顔になり……
「ごめん。せっかくオーケーしてくれたのに何も話す話題考えてないや……」
「ぷっ……あははははっ! 深刻な顔していなのに何も考えてないんですね! ふふふっ!」
思わず吹き出してしまった。分かりやすい位顔色がコロコロ変わって雰囲気のギャップもあり笑ってしまう。それを見たヒカリも……
「ふふっ! あははははっ!」
……
……
二人の笑い声が響き少したった。一息ついてヒカリが話かけてくる。
「めぐるさまはどうしてプリーストなのにそんなに強いの? レイナをびっくりさせるくらいの変わった角度から蹴りを使っていたよね?」
「僕は物心ついた時から自分を守るために色々な種類の格闘技を勉強してきました」
「格闘技?」
「そっか……格闘技はね。戦うため、守るための戦闘技術のことだよ。例えば、ただグーで殴るよりも自分の体重や勢いを利用するともっと強く殴れる。こういう、体の構造とか何処を殴ると痛いかとかをしっかりと考えで実践する技術なのです」
「なるほど、自分で学んだの?」
「自分でというよりは僕のいた所ではそれを生業としていた人たちがいてお金を払って教えてもらうんです。僕の両親は物心ついた時からずっと仕事でいなく、そこそこ裕福だから周りから浮いて一人だったことと、イジメのような空気を感じて来て、このままだと不味い。自分の身は自分で守らないとって思って鍛練しました。なにより面白くて色んなモノに手を出しました」
「そうなんだね。私も同じで両親がいない……正確には孤児院に捨てられて拾われたんだ。しばらくはそれで良かったんだけど、孤児院の一部にはギルドからの仕事の斡旋みたいな物があってジョブを登録してギルドに所属する~って10歳の時、他の子たちと行ったときに【勇者】だ~……って大騒ぎになって」
「えっ!? 最初から【勇者】だったんですか!?」
「うん……そうなの。もっと小さい時から夢で神様に会う、お話をする夢をみていて【勇者】って判明したときにそういうことだったんだな~と思った。『君には弱い人を守る力がある! 』って神様にずーと言われ続けていたから」
「その神様って……」
「軍神アルフィリアって神様だよ」
女神アルマさまじゃないんだ……
「その日の夜、夢で訪ねたんだけど私は【勇者】というジョブだけど他の超越位階者とは違いランク2~3くらいの力しかないから、どんどん修行してしっかりと実力をつけなさいって、ゆくゆくは他の超越位階者も同じように強くなれる。最初から力を貰えると思うなって言われた。なんでも最初から力を持ってる超越位階者って2人くらいしかいないんだって」
僕はそしたら3人目なんですね。女神さま……やっぱり甘やかしてますね……
「レイナも私の騎士として忠誠の儀を行って超越位階者に覚醒したんだ。私自身力不足だから周りの人たちと協力してみんなが笑ってくらせるような世界を作りたいんだ。そんな中、陛下とレイナとお兄ちゃんに出会って王都騎士団ができたんだ。だけど、今回の一件で大分迷惑かけちゃって、やっぱり私は……」
「そっちもそっちで大変なんですね……僕は騎士団に所属はしませんが、またこうやって話したりはできるので」
「ほんとうっ!?」
「はい。そのくらいであれば……ただめぐる様っていう様付けはやめてもらいたいですね。僕はそんなに偉い存在じゃないし、あなたのように努力してるわけじゃないから」
「そしたら、めぐるって呼ばせてもらうね! ……私もヒカリって呼んでもらいたいんだけどダメかな?」
「それでいいなら」
「うん! よろしくね! めぐる!」
夜空の星に照らされながら握手をする。なんか和解したような感じだけど、嫌いな相手を少し理解できた気がしました。
つづく